【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
大魔導師との再会
人型聖獣の彼が城に慣れるまでの間、キュリオの傍には常にダルドの姿があった。
初めのうちは親の後を追いかける子供のような動きをしていたが、キュリオが重要な仕事のため執務室へ籠ってしまうと、ようやくダルドの好奇心は行動範囲を越えて外へと向けられた。
「…………」
(……キュリオの家はきっと森より広い……)
ここへ来てすぐに城の案内を受けたダルドだが、ひとりで歩き回ればたちまち迷子になってしまうほどに広大な敷地だった。
(ぼくがキュリオの役に立つためにはなにをしたらいいんだろう……)
王様の仕事が手伝えるとは思えないが、キュリオがそう望むのであればダルドは頑張れる。
その前に人の世界の文字が読むことのできないダルドは、まずそこから学ばなくてはならない。
「すこし、だけ……歩いてみようかな……」
ポツリと呟いたダルドは、眼下の庭園を行き来する人の姿をぼんやり眺める。
そこには談笑しながら歩く侍女をはじめ、庭木を手入れする男たちの真剣な顔、そして――……
「……?」
傍らに分厚い本を抱えた青年が慌ただしく建物の脇を横切って行く姿が視界に飛び込んできた。
銀狐だったダルドは動くものにどうしても反応してしまい、暇を持て余していた彼はその姿を追いかけることにした。
――ようやく動き出した人型聖獣の気配に執務室から穏やかに微笑んでいる人物がいた。
「嬉しそうですね。キュリオ様」
主へ目を通してもらう必要がある書類を両手に抱えた従者が、珍しく執務中に別のことを考えていたらしいキュリオに目元を緩ませた。
「あぁ、自立を促すには少し距離を置いたほうがいいと思っていたが、正解だったようだ」
「人型聖獣のダルド様のことでございますね。
しかし、あの方の足が外へ向かわれたのは、キュリオ様へ絶対な信頼を寄せられている証でございましょう」
「ならば私は、ダルドの信頼を裏切らぬよう努力しなくてはいけないな」
キュリオは羽ペンをサラリと走らせ、自身のサインを記したものを待機している別の家臣へと手渡した。
当時のキュリオが言った"自立"は、この数十年後に現れる少女・アオイに向けられることはなかった――。
そしてその先で出会った人物こそ、若かりし日の<大魔導師>ガーラントである。
――歴史を感じさせる古木で作られた壮大な扉の前に立ち、古びた金具に手をかけたキュリオはゆっくり扉をノックした。
コンコン
『はい、どうぞ』
聞き覚えのある幼い声にキュリオはアレスが中にいることを確信して扉を開く。
――ガチャ、ギィ……
重厚感のある扉の合間から顔をのぞかせた小さなアレスの視界には、美しい銀髪をなびかせた憧れのキュリオが微笑みを浮かべて立っていた。
「……キュ、キュリオ様っ!?」
あまりの驚きにあたふたと足踏みする黒髪の魔導師に笑いかけるキュリオ。
「やぁアレス。あまり大きな声では言えないが、明日から君に新しい役目を与えようと思っていてね」
はた、と動きを止めてキュリオの言葉に瞳を輝かせたアレス。
「お、お役目でございますかっ!? 私に……っ!?」
「良かったのぉアレス」
興奮気味の小さな彼の後ろから笑顔を含んだような穏やかな声が響くと――……
「この声……ガーラント?」
初めのうちは親の後を追いかける子供のような動きをしていたが、キュリオが重要な仕事のため執務室へ籠ってしまうと、ようやくダルドの好奇心は行動範囲を越えて外へと向けられた。
「…………」
(……キュリオの家はきっと森より広い……)
ここへ来てすぐに城の案内を受けたダルドだが、ひとりで歩き回ればたちまち迷子になってしまうほどに広大な敷地だった。
(ぼくがキュリオの役に立つためにはなにをしたらいいんだろう……)
王様の仕事が手伝えるとは思えないが、キュリオがそう望むのであればダルドは頑張れる。
その前に人の世界の文字が読むことのできないダルドは、まずそこから学ばなくてはならない。
「すこし、だけ……歩いてみようかな……」
ポツリと呟いたダルドは、眼下の庭園を行き来する人の姿をぼんやり眺める。
そこには談笑しながら歩く侍女をはじめ、庭木を手入れする男たちの真剣な顔、そして――……
「……?」
傍らに分厚い本を抱えた青年が慌ただしく建物の脇を横切って行く姿が視界に飛び込んできた。
銀狐だったダルドは動くものにどうしても反応してしまい、暇を持て余していた彼はその姿を追いかけることにした。
――ようやく動き出した人型聖獣の気配に執務室から穏やかに微笑んでいる人物がいた。
「嬉しそうですね。キュリオ様」
主へ目を通してもらう必要がある書類を両手に抱えた従者が、珍しく執務中に別のことを考えていたらしいキュリオに目元を緩ませた。
「あぁ、自立を促すには少し距離を置いたほうがいいと思っていたが、正解だったようだ」
「人型聖獣のダルド様のことでございますね。
しかし、あの方の足が外へ向かわれたのは、キュリオ様へ絶対な信頼を寄せられている証でございましょう」
「ならば私は、ダルドの信頼を裏切らぬよう努力しなくてはいけないな」
キュリオは羽ペンをサラリと走らせ、自身のサインを記したものを待機している別の家臣へと手渡した。
当時のキュリオが言った"自立"は、この数十年後に現れる少女・アオイに向けられることはなかった――。
そしてその先で出会った人物こそ、若かりし日の<大魔導師>ガーラントである。
――歴史を感じさせる古木で作られた壮大な扉の前に立ち、古びた金具に手をかけたキュリオはゆっくり扉をノックした。
コンコン
『はい、どうぞ』
聞き覚えのある幼い声にキュリオはアレスが中にいることを確信して扉を開く。
――ガチャ、ギィ……
重厚感のある扉の合間から顔をのぞかせた小さなアレスの視界には、美しい銀髪をなびかせた憧れのキュリオが微笑みを浮かべて立っていた。
「……キュ、キュリオ様っ!?」
あまりの驚きにあたふたと足踏みする黒髪の魔導師に笑いかけるキュリオ。
「やぁアレス。あまり大きな声では言えないが、明日から君に新しい役目を与えようと思っていてね」
はた、と動きを止めてキュリオの言葉に瞳を輝かせたアレス。
「お、お役目でございますかっ!? 私に……っ!?」
「良かったのぉアレス」
興奮気味の小さな彼の後ろから笑顔を含んだような穏やかな声が響くと――……
「この声……ガーラント?」