【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
「彼女の名はアオイ。願いを込め、庭に咲く大輪の花からとった名前だ」

「……アオイ様、と言われるのですね」

 深い海のように慈しみにあふれたキュリオの声色が表すものは、赤子に対する純粋な愛情だということがわかる。

「あぁ。アオイが城へ来て早数日が経過したが……
彼女はなにか数奇な星の下に生まれたのではないかと確信に似たものを感じている」

「儂もキュリオ様と同じ意見ですじゃ」

 それまで静かに頷いたガーラントが初めて言葉を発した。そして神妙な面持ちで王へと話の続きを促す。

「アオイがまだ言葉を話せぬ今、あの晩彼女の身に一体なにが起きていたのかは正直わからない。そして私の力が及ばぬが故に……彼女は一度生死の境を彷徨ってしまった」

 伏し目がちにそう話すキュリオの心情を思うと胸が苦しくなる。

「……キュリオ王の力が、及ばない……?」

 ダルドはにわかに信じられず腰を浮かせ身を乗り出した。

「……原因もわからず手の施しようがなくてね。それで精霊王を頼ったというわけさ」

「……っ!」

(千年王の、精霊王……)

 アレスは伝説と謳われる千年王の話を耳にし、緊張のあまり生唾を飲んだ。

(千年王の存在そのものがもはや伝説級の話……。
<夢幻の王>と言われる彼の力を借りるほどのことがアオイ様の身に……?)

「私がいつも彼女の傍に居られる補償はない。そして――」

「ヴァンパイアの王・ティーダが最近になってよくこの城付近で目撃されている。
昼間に城の中へ入り込んでいたこともあったほどにだ」

「なんですって……!?
ヴァンパイアがっ……昼間に? ……なぜっ……!!」

 日の光に弱い彼らは夜の間しか現れないと思っていたアレス。
そしてその常識たる知識が間違ってるとは到底思えない。

「驚いてはならんぞアレス。王とはそういうものじゃ。
在位二百年を超えた若い王だとしても、ただのヴァンパイアとは格が違うのじゃよ」
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