【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
キュリオ、心の声
「キュリオ様ならきっと大丈夫ですわ。
輝きに満ちたこの国がそれを証明しておりますもの。それにかけがえのない姫様の存在が素敵な"お父様"に導いてくださいますから」
「……そうか、そうだな」
(アオイが私を父親にする……か)
ふっと笑ったキュリオが見つめる先には#仕立屋__ラプティス__#のロイとアオイ、そして彼の手伝いに集った侍女らが詰める作業部屋へとつづく扉がある。
キュリオが立ち止まると背後から前にでた女官が扉をノックし、声をかける。
「ロイ殿、失礼いたします」
『は、はい! どうぞ!』
扉の向こうにいるであろうキュリオの存在にロイの声が緊張の色を滲ませる。
いつもは他者を思いやる気持ちを一番に考えているキュリオがこの時ばかりは、自身の内なる感情に浮足立ってしまいそうだった。
(まるで花嫁を待つひとりの男になった気分だな……)
視界が開けると、髪の先からつま先にいたるまで存分に魅力を引き出された小さな天使が待っていた。
「あぁ……悠久に舞い降りた天使そのものだ」
まばゆい純白の衣に銀の刺繍、ふんわりと柔らかな羽毛が首元にそよぎ、幼子の丸みのある輪郭を優しく包んでいる。それはまるで彼女自身が輝いているように見え、微笑みは春を迎えた蕾がほころんだようにあたたかい。
「きゃはっ」
キュリオに抱き上げられ、頬をすり寄せられたアオイが上機嫌な笑い声をあげる。いまは褒められた嬉しさよりも、キュリオに会えた喜びが勝っているようだった。
「途中、キュリオ様をお探しになっているような素振りを見せられて、どうしようかと思いましたが……」
「迷惑をかけてしまっただろうか……?」
「い、いいえっ! どことなく問いかけられるような視線はございましたが、ただそれだけで」
「そうか」
ロイの緊張した声に"アオイが機嫌を悪くしてしまったかもしれない"と、申し訳ない気持ちが芽生えたものの心配は無用だとわかり安堵する。
「んまぁっ キュリオ様? どことなく嬉しそうですわよ?」
クスリと笑みをこぼした女官たち。
その言葉に目元を染めたキュリオは眉を下げながら答えた。
「アオイの"特別"になれたのが、私はどうも嬉しいらしい」
「キュリオ様……」
キュリオの口から"誰かの特別になれたことが嬉しい"など、ロイも女官たちも聞いたことがなかった。
それは民のことを一番に考えながらも"個人の所有物にはならない"という王ならではの気高い思考ゆえのものだと考えられていたからだ。
「ようやくキュリオ様のお言葉が聞けたこと、わたくしたちは嬉しいですわ」
薄らと涙を浮かべた女官や侍女らが指先で目元を拭いながら柔らかく微笑んだ。
「どうか御心を隠すことなく存分に姫様へ愛情をお注ぎになってくださいませ!」
優しさにあふれる彼女たちの言葉を聞きながらロイは思った。
(キュリオ様の幸せを願わない者はきっといない。いるとすれば、やはり王を色恋の相手として捉えてしまう外部の女性たち……私が力になれることはないだろうか……)
輝きに満ちたこの国がそれを証明しておりますもの。それにかけがえのない姫様の存在が素敵な"お父様"に導いてくださいますから」
「……そうか、そうだな」
(アオイが私を父親にする……か)
ふっと笑ったキュリオが見つめる先には#仕立屋__ラプティス__#のロイとアオイ、そして彼の手伝いに集った侍女らが詰める作業部屋へとつづく扉がある。
キュリオが立ち止まると背後から前にでた女官が扉をノックし、声をかける。
「ロイ殿、失礼いたします」
『は、はい! どうぞ!』
扉の向こうにいるであろうキュリオの存在にロイの声が緊張の色を滲ませる。
いつもは他者を思いやる気持ちを一番に考えているキュリオがこの時ばかりは、自身の内なる感情に浮足立ってしまいそうだった。
(まるで花嫁を待つひとりの男になった気分だな……)
視界が開けると、髪の先からつま先にいたるまで存分に魅力を引き出された小さな天使が待っていた。
「あぁ……悠久に舞い降りた天使そのものだ」
まばゆい純白の衣に銀の刺繍、ふんわりと柔らかな羽毛が首元にそよぎ、幼子の丸みのある輪郭を優しく包んでいる。それはまるで彼女自身が輝いているように見え、微笑みは春を迎えた蕾がほころんだようにあたたかい。
「きゃはっ」
キュリオに抱き上げられ、頬をすり寄せられたアオイが上機嫌な笑い声をあげる。いまは褒められた嬉しさよりも、キュリオに会えた喜びが勝っているようだった。
「途中、キュリオ様をお探しになっているような素振りを見せられて、どうしようかと思いましたが……」
「迷惑をかけてしまっただろうか……?」
「い、いいえっ! どことなく問いかけられるような視線はございましたが、ただそれだけで」
「そうか」
ロイの緊張した声に"アオイが機嫌を悪くしてしまったかもしれない"と、申し訳ない気持ちが芽生えたものの心配は無用だとわかり安堵する。
「んまぁっ キュリオ様? どことなく嬉しそうですわよ?」
クスリと笑みをこぼした女官たち。
その言葉に目元を染めたキュリオは眉を下げながら答えた。
「アオイの"特別"になれたのが、私はどうも嬉しいらしい」
「キュリオ様……」
キュリオの口から"誰かの特別になれたことが嬉しい"など、ロイも女官たちも聞いたことがなかった。
それは民のことを一番に考えながらも"個人の所有物にはならない"という王ならではの気高い思考ゆえのものだと考えられていたからだ。
「ようやくキュリオ様のお言葉が聞けたこと、わたくしたちは嬉しいですわ」
薄らと涙を浮かべた女官や侍女らが指先で目元を拭いながら柔らかく微笑んだ。
「どうか御心を隠すことなく存分に姫様へ愛情をお注ぎになってくださいませ!」
優しさにあふれる彼女たちの言葉を聞きながらロイは思った。
(キュリオ様の幸せを願わない者はきっといない。いるとすれば、やはり王を色恋の相手として捉えてしまう外部の女性たち……私が力になれることはないだろうか……)