【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

残念な気持ちと…

……あたりには静かすぎるほどの静寂とわずかな血の匂い――
――やがて目を逸らしていた女官が、恐る恐る二人へと視線を戻す……

王と女官、大臣の視線の先では愛くるしい赤子がきょとんとしている。

「血が欲しいかい? ……もしお前がヴァンパイアだとしても私の血をあげるから我慢しなくていい」

キュリオは傷付けた己の指の腹から鮮血が流れていくさまと、赤子の反応を見逃すまいと注視している。
優しく微笑んだ彼は片手で彼女の頬をなでながら血に染まった指先を小さな口元へそっと近づけた。

「?」

しかし赤子は態度を急変させるどころか差し出された指の意味が理解できぬ様子で、澄みきった眼差しでキュリオを見つめ返す。
――それからどれくらいの時が流れただろう。
血に濡れたキュリオの指先は、彼女の潔白を再認識させるように凝固していく。

「…………」

(人の血を前に冷静で居られるヴァンパイアはいない……)

残念な気持ちと安堵した気持ちが交差し、複雑な表情をみせるキュリオ。

「あぁ、お前の食事はやはりミルクのようだね」

「……! きゃぁっ!」

"ミルク "という言葉に反応を示した赤子は嬉しそうな声をあげて足をバタバタさせる。

「ふふっ、試すような事をしてすまない。怖い思いをさせて悪かった」

(……これでいい。もし彼女がヴァンパイアで長い命があったとしても……周りに恐れられる存在ではあまりにも不憫だ……)

赤子の小さな体を抱き上げ、頬を合せ安らいだ笑顔を向けるキュリオのもとへ女官が駆け寄ってくる。
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