【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
<教官>ブラスト
浮足立つ暇もなく魔導師の集う別棟へとやってきたガーラントとアレスは、リストを見ながら<使者>の経験がある中堅的立場の魔導師を探しはじめた。
「先生、この方はいかがでしょう」
アレスは指差した先をガーラントに見せた。
彼は年齢にして二十八歳、物静かで勤勉な男だと有名な魔導師だった。
「ふむ、そやつならこの時間は研究室に籠ってるやもしれん。儂は剣士ふたりを連れてくるでな、そっちは頼めるか?」
「わかりました。魔導師からの経験者はひとりでよろしいですか?」
「構わんよ。剣士からも適任者を連れてくるつもりじゃ」
ふたりは簡単な打ち合わせののち、それぞれが求める人物のもとへと足早に向かう。
幼いアレスは、初めての任務に気持ちばかりが高揚していくが、立場上今回はただついて行くだけの存在となるだろうことは十分理解しているつもりだった。
(噂では銀色の光のようなものだと聞いたことがあるが、キュリオ様の加護の灯ともしびを私はまだ見たことがない)
せめて灯を掲げる役に就けないだろうか? と、そんなことを考えながら歩いていると、あっというまに研究室の前に辿りついた。
古木で作られた巨大な扉の前に立つと、悠久の歴史が一心に感じられる気がする。どれほどの魔導師たちがこの部屋を出入りしたのだろう。もとは金色と思われる扉の金具も黒ずんでしまっているが、それがまた風情があり、痛んでいないのは素材が良く作りがしっかりしているためだということは容易に想像できる。
アレスは深呼吸し、控えめに扉をノックすると静かな廊下によく響いた。
――コンコン
『はい』
すぐに返事があり、わずかに開いた扉の向こうからは探していた中堅的立場の彼が顔を覗かせる。
「おはようございます、先輩。実は――」
「おはよう……あれ? 君は最近入った……アレス、だったかな?」
何度か言葉を交わした程度だが互いに見知った間柄だったのが功を奏し、気難しいといわれる先輩魔導師にアレスは笑顔で迎い入れてもらうことに成功したのだった――。
――石造りのゲートをくぐると、鍛錬用の防具に身を包んだ剣士たちが大声をあげて剣の打ち合いをしている。ぶつかる金属音と火花が散る様を見ていると彼らの本気さがまじまじと伝わってきた。
「ふぉっふぉっ! 相変わらず剣士は血の気が多くて何よりじゃ!」
感心したようにガーラントが顎鬚をなでると、彼の姿に気づいたひとりの体格の良い男が小走りにやってきた。
「これはガーラント殿! いつも書物に囲まれているあなたがなぜこのようなところにっ!?」
「……ハッ!! もしや……っ! とうとう剣を……っっ!?」
興奮し、日に焼けた顔に笑顔を弾けさせる壮年の彼は、若い剣士らの指導を任された<教官>ブラストだった。
血気盛んな彼に圧倒されながらもガーラントは……
「むぅ……。おぬしもキュリオ様と同じようなことを……儂はそんなに書物に囲まれてばかりおるかのぉ……? それにいまさら、剣を習いとは思わんよ」
些か不満そうなガーラントは普段書物に囲まれているという自覚があまりないらしく、剣に関しても同じような反応をみせる。
「いえいえっ! 魔術を極めたあなたなら剣術も学べるはずです!!」
ガハハッと笑う彼は以前からガーラントに剣術を覚えさせようと必死で、彼曰く"術を極めた者ならばさらにその先があるはず! "とその信念はなかなか揺らがないのだった。
「まぁのぉ……。おぬしの言いたいことはわかるが……儂はいかんせん……」
とガーラントが言葉を続けようとすると――
「隙ありぃぃいぃぃーーーーーっっっ!!!」
少年の声とともに、ブラストの脳天を木刀が直撃し、めり込むのが見えた――。
「先生、この方はいかがでしょう」
アレスは指差した先をガーラントに見せた。
彼は年齢にして二十八歳、物静かで勤勉な男だと有名な魔導師だった。
「ふむ、そやつならこの時間は研究室に籠ってるやもしれん。儂は剣士ふたりを連れてくるでな、そっちは頼めるか?」
「わかりました。魔導師からの経験者はひとりでよろしいですか?」
「構わんよ。剣士からも適任者を連れてくるつもりじゃ」
ふたりは簡単な打ち合わせののち、それぞれが求める人物のもとへと足早に向かう。
幼いアレスは、初めての任務に気持ちばかりが高揚していくが、立場上今回はただついて行くだけの存在となるだろうことは十分理解しているつもりだった。
(噂では銀色の光のようなものだと聞いたことがあるが、キュリオ様の加護の灯ともしびを私はまだ見たことがない)
せめて灯を掲げる役に就けないだろうか? と、そんなことを考えながら歩いていると、あっというまに研究室の前に辿りついた。
古木で作られた巨大な扉の前に立つと、悠久の歴史が一心に感じられる気がする。どれほどの魔導師たちがこの部屋を出入りしたのだろう。もとは金色と思われる扉の金具も黒ずんでしまっているが、それがまた風情があり、痛んでいないのは素材が良く作りがしっかりしているためだということは容易に想像できる。
アレスは深呼吸し、控えめに扉をノックすると静かな廊下によく響いた。
――コンコン
『はい』
すぐに返事があり、わずかに開いた扉の向こうからは探していた中堅的立場の彼が顔を覗かせる。
「おはようございます、先輩。実は――」
「おはよう……あれ? 君は最近入った……アレス、だったかな?」
何度か言葉を交わした程度だが互いに見知った間柄だったのが功を奏し、気難しいといわれる先輩魔導師にアレスは笑顔で迎い入れてもらうことに成功したのだった――。
――石造りのゲートをくぐると、鍛錬用の防具に身を包んだ剣士たちが大声をあげて剣の打ち合いをしている。ぶつかる金属音と火花が散る様を見ていると彼らの本気さがまじまじと伝わってきた。
「ふぉっふぉっ! 相変わらず剣士は血の気が多くて何よりじゃ!」
感心したようにガーラントが顎鬚をなでると、彼の姿に気づいたひとりの体格の良い男が小走りにやってきた。
「これはガーラント殿! いつも書物に囲まれているあなたがなぜこのようなところにっ!?」
「……ハッ!! もしや……っ! とうとう剣を……っっ!?」
興奮し、日に焼けた顔に笑顔を弾けさせる壮年の彼は、若い剣士らの指導を任された<教官>ブラストだった。
血気盛んな彼に圧倒されながらもガーラントは……
「むぅ……。おぬしもキュリオ様と同じようなことを……儂はそんなに書物に囲まれてばかりおるかのぉ……? それにいまさら、剣を習いとは思わんよ」
些か不満そうなガーラントは普段書物に囲まれているという自覚があまりないらしく、剣に関しても同じような反応をみせる。
「いえいえっ! 魔術を極めたあなたなら剣術も学べるはずです!!」
ガハハッと笑う彼は以前からガーラントに剣術を覚えさせようと必死で、彼曰く"術を極めた者ならばさらにその先があるはず! "とその信念はなかなか揺らがないのだった。
「まぁのぉ……。おぬしの言いたいことはわかるが……儂はいかんせん……」
とガーラントが言葉を続けようとすると――
「隙ありぃぃいぃぃーーーーーっっっ!!!」
少年の声とともに、ブラストの脳天を木刀が直撃し、めり込むのが見えた――。