【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
異空間の旅・始
この世界は五大国から成っており、それぞれの国を繋いでいるのはどこの領土にも属さない異空間だった。
まるで星空の中にある回路、もしくは空のもっと向こう。人の世界でいわれている宇宙のような空間だ。
悠久と異空間を繋ぐ門は常に開かれている。そして開かれた国だからこそ他国からの遊学や旅人たち、精霊らが自由に出入りすることも可能なのだ。それはこの国が豊かで、厳しい規則や掟がないのも訪れる場所として選ばれる理由のひとつだった。
巨大なひとつの水晶でできている悠久の門は、キュリオが命じなければ閉ざされることはない。しかし他の四大国が同じとは限らず、不用意に他国の者が簡単に通れぬよう、常に閉ざされているところがほとんどだった。
<使者>の経験がないアレスは恐る恐る悠久の門番らに加護の灯を見せると、頷いた彼らは快く送り出してくれた。
(悠久の民が外へ出ることを制限するのは……やはりここ以上の安全は他の国にはないからだ)
幼いながらに正確な答えを導き出すアレスはさすがだ。同年代のカイなど「わー! すげー!!」の繰り返しで、五大国が現在に至った経緯など微塵も考えていないことは発言からわかる。
力を持たない悠久の民を思いやる王の心は深い。ここまで開かれた国になるまでも相当な努力と歴史があったはずだが、歴代の悠久の王の意志を受け継いだキュリオにしかわからないことがたくさんあるのは確かだ。
(この門を生成したのはやはり初代の王なのだろうか……?)
尽きぬ興味に意識を囚われながら門を出ると、突如上下が真逆かのような錯覚を覚える。
「うわっ!!」
はじめに声をあげたのはカイだった。剣で鍛えたバランス感覚、そして身体能力も意味をなさないように体はグラグラと揺れてしまう。
「大丈夫?」
振り返り、カイの体を支えてくれたのはテトラだった。彼は微笑むとゆっくり前方を指差す。
「足元を見ちゃだめだ。目的地、つまり行きたい国の門の明かりを見つめて歩くんだよ」
「い、行きたい国の門……? 明かり……?」
テトラが示した遥か先に金色に輝く門が見えた。
しかし何か違和感を感じたカイが首を捻ると、その光は内側から漏れているという表現のほうが正しいことに気づく。
「……金色の光が差す国って、すげぇ王様が居そうだな!」
後ろのほうで発するカイの声には耳を傾けず、振り向いたアレスがテトラへ問う。
「あの、先輩……あれはどこの国かご存じですか?」
「精霊の国だよ」
彼がそう判断した理由は扉の形状からか、それとも悠久からの位置なのかはわからない。そのことを詳しく聞こうとするアレスの前に、カイがまたも適当な相槌を打つ。
「へぇー!」
話を折られてしまったアレスは自身で知り得る限りの"精霊の国"の知識を掘り返し、やがてゴクリと喉を鳴らす。
(……精霊の国……
たしか、第一位の王が治める国だ。彼は人嫌いなところがあって、長く生きながらもその姿を知らない王たちがいる程だと……)
――トントン
俯くアレスの肩を叩いたのは、もうひとりの先輩<魔導師>ノエルで物静かな青年だった。
「精霊の国に立ち入ってはだめだ。惑わされるよ」
まるで星空の中にある回路、もしくは空のもっと向こう。人の世界でいわれている宇宙のような空間だ。
悠久と異空間を繋ぐ門は常に開かれている。そして開かれた国だからこそ他国からの遊学や旅人たち、精霊らが自由に出入りすることも可能なのだ。それはこの国が豊かで、厳しい規則や掟がないのも訪れる場所として選ばれる理由のひとつだった。
巨大なひとつの水晶でできている悠久の門は、キュリオが命じなければ閉ざされることはない。しかし他の四大国が同じとは限らず、不用意に他国の者が簡単に通れぬよう、常に閉ざされているところがほとんどだった。
<使者>の経験がないアレスは恐る恐る悠久の門番らに加護の灯を見せると、頷いた彼らは快く送り出してくれた。
(悠久の民が外へ出ることを制限するのは……やはりここ以上の安全は他の国にはないからだ)
幼いながらに正確な答えを導き出すアレスはさすがだ。同年代のカイなど「わー! すげー!!」の繰り返しで、五大国が現在に至った経緯など微塵も考えていないことは発言からわかる。
力を持たない悠久の民を思いやる王の心は深い。ここまで開かれた国になるまでも相当な努力と歴史があったはずだが、歴代の悠久の王の意志を受け継いだキュリオにしかわからないことがたくさんあるのは確かだ。
(この門を生成したのはやはり初代の王なのだろうか……?)
尽きぬ興味に意識を囚われながら門を出ると、突如上下が真逆かのような錯覚を覚える。
「うわっ!!」
はじめに声をあげたのはカイだった。剣で鍛えたバランス感覚、そして身体能力も意味をなさないように体はグラグラと揺れてしまう。
「大丈夫?」
振り返り、カイの体を支えてくれたのはテトラだった。彼は微笑むとゆっくり前方を指差す。
「足元を見ちゃだめだ。目的地、つまり行きたい国の門の明かりを見つめて歩くんだよ」
「い、行きたい国の門……? 明かり……?」
テトラが示した遥か先に金色に輝く門が見えた。
しかし何か違和感を感じたカイが首を捻ると、その光は内側から漏れているという表現のほうが正しいことに気づく。
「……金色の光が差す国って、すげぇ王様が居そうだな!」
後ろのほうで発するカイの声には耳を傾けず、振り向いたアレスがテトラへ問う。
「あの、先輩……あれはどこの国かご存じですか?」
「精霊の国だよ」
彼がそう判断した理由は扉の形状からか、それとも悠久からの位置なのかはわからない。そのことを詳しく聞こうとするアレスの前に、カイがまたも適当な相槌を打つ。
「へぇー!」
話を折られてしまったアレスは自身で知り得る限りの"精霊の国"の知識を掘り返し、やがてゴクリと喉を鳴らす。
(……精霊の国……
たしか、第一位の王が治める国だ。彼は人嫌いなところがあって、長く生きながらもその姿を知らない王たちがいる程だと……)
――トントン
俯くアレスの肩を叩いたのは、もうひとりの先輩<魔導師>ノエルで物静かな青年だった。
「精霊の国に立ち入ってはだめだ。惑わされるよ」