【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

第五位の王

――気を取り直したアレスたちは次の目的地へと急ぐ。立ち止まり、話を続ければあっという間に時は流れてしまう。急ぐ手段といえば馬だが、この異空間で走らせようものならば彼らは混乱しまともに進むことが出来ないだろう。よって、翼もない一行は徒歩でいくしかないのだ。

「次はあちらの門ですね」

アレスが灯を掲げた先には漆黒の巨大な扉が重苦しい雰囲気を漂わせ、一行を待ち受けていた。

「そうだ! たしか第五位の王が治める国だ!!」

「なんだよおっさん! その適当な言い方はよ!」

ブラストの曖昧な物言いにカイが珍しく厳しい言葉を投げつけた。それだけ<使者>としての心構えが成ってきたということだろうか?

「ガーラント殿がいたら率直に答えられただろうがな、俺はあまりそういうことに詳しくないっ!」

「はぁーっ!? あんたそれでも教官かよ!!」

見かねたアレスがカイを宥めながら囁いた。

「カイ、教官が知らないわけないだろ?
あの方は私たちが直接目でみて感じたことを大切にするようにとわざと知らないふりをしているんだよ」

「あいつに限ってそれはねぇ!!」

断固として認めないカイだったが、徐々に近づいてくる門を見ながらテトラが言葉を発した。

「それなりに気を付けたほうがいいと思うよ」

「え?」

「ん?」

アレスとカイが不意打ちをくらったような声を出すと、ガハハと笑ったブラストが腕組みをしてもっともらしく胸をはる。

「第五位の王と言えどお前らより何万倍も強いぞ!? そしてここが"ヴァンパイアの王"が統べる吸血鬼の国だ!!」

「なんであんたが威張ってるんだ!?」

幼い剣士が師へ鋭い突っ込みを入れたが、彼は悪びれもせずフフンと鼻で笑っている。

「精霊は"惑わす"が、ここでは"喰われる"から気を付けろっ!!」

「!? うげぇ……っ! そっか、ヴァンパイアだもんな……」

いきなり気落ちしたカイ。まだヴァンパイアという種族に出くわしたことがないため、想像すると恐ろしいものがある。人の血を好み、その種族特融の翼をもつ闇の世界の者たち。そして彼らは人よりも長い命であることは有名な話だった。

「第五位というくらいですから、即位してまだ日が浅いということでしょうか?」

アレスの言葉にブラストは首を横に振った。

「……王のなかではまだまだかもしれんが、彼は在位二百年以上の王だ」

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