【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
ヴァンパイアの王Ⅰ
そして男がいなくなると、取り残された女は重く体を引きずるようにして闇へと溶け込み消え去っていった。その背景に見えるのは不気味に輝く巨大な満月と、一面に広がる漆黒の闇だった。
「急がないと……」
門が閉ざされるとアレスは後方を振り返って笑む。
「カイ、助けてくれてありがとう。君が私の腕を掴んでくれたおかげで引き込まれずにすんだ」
「あ……っい、いいってことよ……!」
アレスの素直な礼に恥ずかしくなったカイは照れ隠しのように笑うと、今度はいきなり激怒してブラストへと詰め寄った。
「おい! 何でアレスを助けなかったんだよ!!」
それはテトラたちにも言えることで、彼を助けようとした者はカイ以外にいなかったのだ。
すると、ニカッと笑ったブラストがバンバンと熱くなる少年の背を叩く。
「はっはっは! 加護の灯がどんなものか見せてやるのもいいかと思ってなっ!! 出発前に言われなかったか? あれがあれば絶対安全だって!」
得意げに笑うブラストはグリグリと幼い二人の頭を撫でくりまわしている。
「加護の灯が心許ないものだったら見習いの君たちを使者に選ぶなんてキュリオ様がなさるわけないさ」
同じく微笑むテトラたちに少しばかり頬を膨らませるカイに再び笑いが起こった――、
――その頃、悠久の王の書簡を受け取ったヴァンパイアの男は蝙蝠(ニュクテリス)のような皮膚が進化した黒い翼を広げ一点を目指していた。
やがて前方に見えてきた巨大な古城がそびえ立つ一際濃い闇へ身を投じると、さらに進んで急降下し、城門の前へと降り立った。
ここは他と違っていたるところに明かりが灯され、城周辺を行き交うヴァンパイアの数も多い。しかし、万年夜のこの国ではそれらの音を吸収するように無音に近い静寂が常に漂っている。彼らはこの静けさを心地よく感じているが……たったひとりだけそうではない男がいた。
「さて……」
門番の彼は迷うことなく古城の廊下を突き進み、大きなホールへと通じる扉の前に立った。ノックをしようと片手をあげるが、しばし考えた後……そのままノブを回し部屋の中へと足を踏み入れる。そして真正面にある数段小高くなった頂きへと視線をうつし、真紅の玉座に人の影を探す。が、彼の思ったとおりそこに人の姿はなく、かわりに広間の隅から姿を現したのは、王の相談役でもある"長老"のヴァンパイアだった。
「……相棒はどうした? その様子では交代で飯でも食いにきたわけではなさそうじゃが……」
男が手に持つ書簡を目にした長老は早くも何かを感じ取ったようだ。
「長老、王はいずこにおられる?」
「……気まぐれなお方じゃからな。まぁ、外に出た様子はなかったからの。城のどこかには居られるだろうて」
「了解した。探してみる」
預かった書簡を胸元にしまうと、王が行きそうないくつかの場所をあたることにした。
(ここにはいないか……)
水の流れるオブジェの前で「暇だ」とぼやいている姿を見かけたことがあったが、今日はここではないらしい。
それからいくつか部屋を覗いてみるが、結局彼の姿はどこにもなかった。
「…………」
あまり表情を持たない門番だったが、しびれを切らしイライラばかりがつのっていく。
(長老にはせめて行先を伝えておいてくださいと、あれほど申し上げたのに……っ!)
「王っ!! どちらにおいでですかっっ!! 悠久の使者から書簡が届いておりますよ!!!」
やけくそになった彼はどこにいるかもわからない主へと大声で叫んだ。
すると――
「うるせぇぞ。さっきから何してやがる」
「……っ!?」
声のした頭上を見上げると、そこには漆黒の髪に紅の瞳を持つ……ヴァンパイアの王の姿があった――。
「急がないと……」
門が閉ざされるとアレスは後方を振り返って笑む。
「カイ、助けてくれてありがとう。君が私の腕を掴んでくれたおかげで引き込まれずにすんだ」
「あ……っい、いいってことよ……!」
アレスの素直な礼に恥ずかしくなったカイは照れ隠しのように笑うと、今度はいきなり激怒してブラストへと詰め寄った。
「おい! 何でアレスを助けなかったんだよ!!」
それはテトラたちにも言えることで、彼を助けようとした者はカイ以外にいなかったのだ。
すると、ニカッと笑ったブラストがバンバンと熱くなる少年の背を叩く。
「はっはっは! 加護の灯がどんなものか見せてやるのもいいかと思ってなっ!! 出発前に言われなかったか? あれがあれば絶対安全だって!」
得意げに笑うブラストはグリグリと幼い二人の頭を撫でくりまわしている。
「加護の灯が心許ないものだったら見習いの君たちを使者に選ぶなんてキュリオ様がなさるわけないさ」
同じく微笑むテトラたちに少しばかり頬を膨らませるカイに再び笑いが起こった――、
――その頃、悠久の王の書簡を受け取ったヴァンパイアの男は蝙蝠(ニュクテリス)のような皮膚が進化した黒い翼を広げ一点を目指していた。
やがて前方に見えてきた巨大な古城がそびえ立つ一際濃い闇へ身を投じると、さらに進んで急降下し、城門の前へと降り立った。
ここは他と違っていたるところに明かりが灯され、城周辺を行き交うヴァンパイアの数も多い。しかし、万年夜のこの国ではそれらの音を吸収するように無音に近い静寂が常に漂っている。彼らはこの静けさを心地よく感じているが……たったひとりだけそうではない男がいた。
「さて……」
門番の彼は迷うことなく古城の廊下を突き進み、大きなホールへと通じる扉の前に立った。ノックをしようと片手をあげるが、しばし考えた後……そのままノブを回し部屋の中へと足を踏み入れる。そして真正面にある数段小高くなった頂きへと視線をうつし、真紅の玉座に人の影を探す。が、彼の思ったとおりそこに人の姿はなく、かわりに広間の隅から姿を現したのは、王の相談役でもある"長老"のヴァンパイアだった。
「……相棒はどうした? その様子では交代で飯でも食いにきたわけではなさそうじゃが……」
男が手に持つ書簡を目にした長老は早くも何かを感じ取ったようだ。
「長老、王はいずこにおられる?」
「……気まぐれなお方じゃからな。まぁ、外に出た様子はなかったからの。城のどこかには居られるだろうて」
「了解した。探してみる」
預かった書簡を胸元にしまうと、王が行きそうないくつかの場所をあたることにした。
(ここにはいないか……)
水の流れるオブジェの前で「暇だ」とぼやいている姿を見かけたことがあったが、今日はここではないらしい。
それからいくつか部屋を覗いてみるが、結局彼の姿はどこにもなかった。
「…………」
あまり表情を持たない門番だったが、しびれを切らしイライラばかりがつのっていく。
(長老にはせめて行先を伝えておいてくださいと、あれほど申し上げたのに……っ!)
「王っ!! どちらにおいでですかっっ!! 悠久の使者から書簡が届いておりますよ!!!」
やけくそになった彼はどこにいるかもわからない主へと大声で叫んだ。
すると――
「うるせぇぞ。さっきから何してやがる」
「……っ!?」
声のした頭上を見上げると、そこには漆黒の髪に紅の瞳を持つ……ヴァンパイアの王の姿があった――。