【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
運命の出会い
この世界は強大な力をもつ五大国から成っていた。
精霊の国、吸血鬼の国、死の国、雷の国……
――そしてここ悠久の国、王の名はキュリオ。
美しい銀髪をなびかせ、長身の彼は数人の家臣を引き連れて静かな森の中を歩いていた。時折頬に触れるおだやかな風が悠久の平穏さをあらわしている。
「……ここか」
やがて見えた枯れかけの泉のほとりまで来ると、静かに片手を持ち上げ目を閉じる。そして一瞬のうちに彼から発せられたまばゆい光。
それがゆっくり降り注ぐと同時に、みるみる輝く水が湧きだし、枯れた泉を瞬く間に潤していった。その神秘的な光景に感嘆の声があがると、開かれた空色の瞳に安堵の色が浮かぶ。
「キュリオ様!!」
王の名を叫びながら戻ってきたのは見回りで離れていた家臣のひとりだった。
「なにごとだ」
落ち着いた様子でキュリオが振り返る。
「……も、申し上げます! 聖獣の森付近にて、人間の赤ん坊の泣き声が聞こえたとの情報を受け、現在数人が捜索に向かっているところでございます!」
「赤ん坊が聖獣の森に?」
(親に捨てられたのか……?)
キュリオは胸を痛めながら自らも聖獣の森へと急ぐ。
そんな彼が纏うのは胸元が小さく開いた上質な純白の衣だった。裾はくるぶしを完全に隠してしまうほどに長く、胸や袖、裾に施された銀の刺繍が王であることを意味している。
そしてその絹のような肌に接するのは極めの細やかな立て襟のシャツで、海のように深い青色をしている。それが空色の瞳とグラデーション効果を発揮しており、見目二十代前半の隙のない彼の美貌をより完璧なものへと導いていた。
――やがて幻想的な聖獣の森を歩いていくと……
見事な金の角を掲げた一角獣(ユニコーン)が、家臣らの前に立ちはだかっているのが見えた。そしてその聖獣の足元には、たしかに人間の赤ん坊がちいさく丸まっている。
(……間違いないようだな)
――ブルルッ
角を突出し、前足で土を蹴るような仕草をしきりに見せる一角獣(ユニコーン)。己らを取り囲む人間の姿に威嚇の姿勢を崩そうとしない。
しかしそれはまるで、赤ん坊を守る母親のようにもみえるから不思議なものだ。
キュリオは怯えることもなく一角獣(ユニコーン)の傍へ立つと優しく顔をなでる。警戒心の強い聖獣に近づくことができるのはキュリオ以外いないだろう。先程まで家臣らを遠ざけようと威嚇していた一角獣(ユニコーン)だが、キュリオの瞳をじっと見つめると一歩……また一歩と赤ん坊から離れていく。
「さすがはキュリオ様……」
後方で待機していた城の者たちは、憧れと恍惚の眼差しで偉大な王に魅入っている。
そしてキュリオは大人しく立ち退いた聖獣と会話するように言葉を発した。
「ああ、心配ない。私が預かろう」
一角獣(ユニコーン)はキュリオが赤ん坊を抱きかかえたのを確認すると、どこかへ行ってしまった。人も獣も大自然さえもキュリオが絶対的な王であることを認めているからこそだった。
やがて聖獣を見送った彼の瞳が腕の中の赤ん坊へとさがる。
「よく眠っている。おなごか……?」
涙のあとが残る、ちいさな赤ん坊の目元を優しく指でなでると、くすぐったそうに微笑んだように見えた。キュリオはその愛らしい表情に目を細めると、心配する家臣らへ城に帰還すると合図を送り、一行はその場を後にしたのだった――
精霊の国、吸血鬼の国、死の国、雷の国……
――そしてここ悠久の国、王の名はキュリオ。
美しい銀髪をなびかせ、長身の彼は数人の家臣を引き連れて静かな森の中を歩いていた。時折頬に触れるおだやかな風が悠久の平穏さをあらわしている。
「……ここか」
やがて見えた枯れかけの泉のほとりまで来ると、静かに片手を持ち上げ目を閉じる。そして一瞬のうちに彼から発せられたまばゆい光。
それがゆっくり降り注ぐと同時に、みるみる輝く水が湧きだし、枯れた泉を瞬く間に潤していった。その神秘的な光景に感嘆の声があがると、開かれた空色の瞳に安堵の色が浮かぶ。
「キュリオ様!!」
王の名を叫びながら戻ってきたのは見回りで離れていた家臣のひとりだった。
「なにごとだ」
落ち着いた様子でキュリオが振り返る。
「……も、申し上げます! 聖獣の森付近にて、人間の赤ん坊の泣き声が聞こえたとの情報を受け、現在数人が捜索に向かっているところでございます!」
「赤ん坊が聖獣の森に?」
(親に捨てられたのか……?)
キュリオは胸を痛めながら自らも聖獣の森へと急ぐ。
そんな彼が纏うのは胸元が小さく開いた上質な純白の衣だった。裾はくるぶしを完全に隠してしまうほどに長く、胸や袖、裾に施された銀の刺繍が王であることを意味している。
そしてその絹のような肌に接するのは極めの細やかな立て襟のシャツで、海のように深い青色をしている。それが空色の瞳とグラデーション効果を発揮しており、見目二十代前半の隙のない彼の美貌をより完璧なものへと導いていた。
――やがて幻想的な聖獣の森を歩いていくと……
見事な金の角を掲げた一角獣(ユニコーン)が、家臣らの前に立ちはだかっているのが見えた。そしてその聖獣の足元には、たしかに人間の赤ん坊がちいさく丸まっている。
(……間違いないようだな)
――ブルルッ
角を突出し、前足で土を蹴るような仕草をしきりに見せる一角獣(ユニコーン)。己らを取り囲む人間の姿に威嚇の姿勢を崩そうとしない。
しかしそれはまるで、赤ん坊を守る母親のようにもみえるから不思議なものだ。
キュリオは怯えることもなく一角獣(ユニコーン)の傍へ立つと優しく顔をなでる。警戒心の強い聖獣に近づくことができるのはキュリオ以外いないだろう。先程まで家臣らを遠ざけようと威嚇していた一角獣(ユニコーン)だが、キュリオの瞳をじっと見つめると一歩……また一歩と赤ん坊から離れていく。
「さすがはキュリオ様……」
後方で待機していた城の者たちは、憧れと恍惚の眼差しで偉大な王に魅入っている。
そしてキュリオは大人しく立ち退いた聖獣と会話するように言葉を発した。
「ああ、心配ない。私が預かろう」
一角獣(ユニコーン)はキュリオが赤ん坊を抱きかかえたのを確認すると、どこかへ行ってしまった。人も獣も大自然さえもキュリオが絶対的な王であることを認めているからこそだった。
やがて聖獣を見送った彼の瞳が腕の中の赤ん坊へとさがる。
「よく眠っている。おなごか……?」
涙のあとが残る、ちいさな赤ん坊の目元を優しく指でなでると、くすぐったそうに微笑んだように見えた。キュリオはその愛らしい表情に目を細めると、心配する家臣らへ城に帰還すると合図を送り、一行はその場を後にしたのだった――