【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

死の国、冥王の力

(次はあそこか……)

少し離れた場所にあるその門の周辺には灰色の#靄__もや__#がかかっており、ここからでは門の姿をぼんやりとしか確認できない。アレスはいままでとは違う不気味なその風貌にガーラントの言葉を思い出す。

"死の国に立ち入ってはならん。<冥王>と顔を合せてはならんぞ"

そう言ったガーラントの神妙な面持ちを思い出し、ゾクリと嫌な汗が背中を伝う。

(……先生は冥王を特に気にしておられた。もし顔を合わせたら……一体何が起きるというのだろう……)

クリアしたふたつの門でさえ多少危うい場面があった。しかし"死の国"と"冥王"と具体的に忠告を受けたからには良からぬ理由があるに違いない、とアレスは思考を巡らせている。

「教官、次はおそらく死の国の門です。先生に気を付けろと言われていたのですが、……冥王マダラ様はどのような方なのでしょう……」

「……ガーラント殿は他に何か言っていたか?」

カイとじゃれあっていたブラストが急に真剣な顔になり、声がわずかに低くなる。

「死の国に立ち入るな、冥王と顔を合せるな。とだけ……」

「……そうか……」

含みのあるブラストの言葉に、カイがしびれを切らしたように声をあげる。

「だーかーらーっ! そうやって一人で納得してねぇで教えろって!!」

「冥王の<神具>は大鎌だ。他の王は普段<神具>を召喚していないが、冥王は常にその鎌を手に持っているって話だ」

表情を強張らせたカイがゴクリと生唾を飲み込む。

「大鎌……? まるで死神みたいじゃねぇか……」

この世界では王こそが絶対で神の存在はまた別ものとして考えられている。よって、人の世界でいう"困った時の神頼み"なるものも存在していないといっていいだろう。

「……その通りだ。魂を狩るための<神具>だというのがもっぱらの噂だ」

いつも笑いを含ませるブラストの顔には今は微塵の冗談の欠片もなく、冷や汗をかいているようにも見えた。その様子から彼もひどい緊張状態だということが痛いほど伝わってくる。

(……キュリオ様を疑うわけではないけれど……そんな相手にこの加護の灯は有効なのだろうか……?)

アレスは冥王の異能力が気がかりでしょうがない。しかし、第二位のキュリオの上に立つのは第一位の精霊王だけのはず。

(そうなると冥王は第三位になるのか……?)

目の前にそびえ立つ靄(もや)に包まれた仄暗(ほのぐら)い扉は、まるで人目を避けた場所に建てられた禁断の扉のように見えてくる。そしてよく見ればその靄は内側からとめどなく流れ続け、冷気が蜷局を巻いている。


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