【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

エデン王の言葉

「そっちのチビ、お前躾がなっていないようだな」

「……っ!」

わずかに眉間に皺を寄せた彼は掘りの深い鋭い瞳を小さな剣士へと向けた。カイはというと射抜くようなエデンの鋭い眼光に睨まれ怯えを含んだ瞳で震えあがっている。

「……も、申し訳ございません。こいつの躾がなってないのはこのブラストの責任でございます」

膝に頭が触れてしまうほどに深く詫びるブラストの背を見たこのとき、自分の行いが彼を苦しめているのだと初めて気づく。

(おっさん……おれのせいで……)

「……お、俺も……申し訳……っございません!」

いつも態度のことを言われると相手が誰であろうと突っぱねていたカイだが、いままで見たどの国の門番たちも他国の王へ敬意を払い、礼儀正しい振る舞いを見せてくれた。

(そりゃあ……ヴァンパイアんとこはおかしかったけど……悠久のあの優しそうな王様やブラストのおっさんが俺のせいで変に見られんのは嫌だっ……!)

居たたまれず衣の裾をぎゅっと握りしめたカイは俯いてしまった。

「……そういえば……剣術の教官やってるって言ってたか? ってことはこのチビは剣士か」

「ええ、まだ見習いですが……」

ブラストの言葉に"なるほど"と視線を向けるエデン。

「小僧、剣を握るなら明確な信念を持て。なんと言われようとぶれない意志がなければ強くなれんぞ」

上から降り注いだ偉大な人物の声にハッと顔をあげる。まるで<使者>の役目を得て少なからず浮ついていた心や、ただ我武者羅(がむしゃら)な日々の鍛錬を見透かすような強い瞳は稲妻となってカイの脳天を突き上げる。

「……お、俺っ……!」

「立派な悠久の剣士になれ。役目を与えられて一人前というものではない。やり遂げてこそ一人前というものだ」

「……"明確な信念"と"ぶれない意志"……やり遂げてこそ……」

轟くような雷の王の声に重みのある言葉が体中に流れ込んでくる不思議な感じだった。
そしてエデンの言葉を反芻しながら目を見開くカイ。静かにその様子を見守っていたブラストは嬉しそうに口角をあげた。

(さすがはエデン王。このお言葉がカイの何かをきっと変えてくれるだろう)

「悪いが俺はこれで失礼する。じゃあなブラスト」

「こちらこそ、貴重なお時間を頂きありがとうございました!」

再度深く頭を下げる一行に彼は小さく頷き、力強い動作でマントを翻すと重量感のある白銀の鎧が高貴な金属音を奏でる。

(……ありがとうございます……エデン王)

オーラの残像を追うように、いつまでも見えなくなった彼の背中を感謝の意を込めてみつめていたブラストは、興奮冷めやらぬテトラの一声で我に返った。

「あ、あの方がエデン様……在位三百年を越える第四位の王!! なんて素晴らしい……っ!!」

「……第四位……」

それまで黙っていたアレスは少し前に語っていたブラストの言葉を思い出した。

(あれはたしか……吸血鬼の国を訪問した時のこと……)

"そうだ! あれは第四位か五位の王がいるところだな!!"

雷の王が第四位だとすると、必然的に冥王が第三位ということになる。

(精霊王が第一位でキュリオ様が二位、マダラ王が三位でエデン王が四位、そしてヴァンパイアの王が五位……先輩の興奮状態からみても他国の王に会える機会なんてそうそうないんだ。でも、教官は? どうみても知り合いのような口ぶりだった……そして<雷帝>を語った時のあの悲し気な表情は一体……)

彼が天才と言われる由縁はその魔導の力だけではない。若干五つにしてここまで頭が回り、大人顔負けの思考力・洞察力を併せ持っているからこそなのだ。
< 68 / 212 >

この作品をシェア

pagetop