【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

花と名に込められた想い

(……私にはこれがもうひとつの太陽に見える。見る者の心を照らす、空のそれよりも柔らかな光……)

「この花はなんと言ったかな……向日、葵……?」

昔、<先代>悠久の王が地面に書いてくれた見慣れない字を懸命に思い出す。

(最後の文字がとても美しく、深く心に残った記憶がある。……単体で"アオイ"と読むのだと先代は教えてくれた)

「アオイ……」

「…………」

小声で呟かれたキュリオの言葉に目を丸くして聞き耳をたてた赤子。その様子に気づかない彼は彼女の体の向きを変え、視線を絡めるように澄んだ泉のような瞳を覗き込む。

「お前には光に愛されたこの花のように、あたりを明るく照らす優しい子に育ってほしい」

「…………」

「――そして、願わくば……私がお前の光であるように。お前の名前は"アオイ"だ」

「……っ!」

おとなしく銀髪の王の言葉に耳を傾けていた少女だが、聞き届けたその瞬間、珠のような瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた――。

(……私の前で涙を見せるのは初めてだな……)

「君は一体何を思って泣いているのだろう……」

優しいキュリオの指先が熱い目尻の涙をぬぐい去るが、小さな赤子はキュリオにしがみ付くわけでもなく、ただただ涙を流し続ける。

「……アオイの不安はすべて私が引き受けよう。だからもっと私に甘えて欲しい」

昔聞いた二人の物語の結末はどうだったかわからない。ただ、その女性が彼の王へと託した想いもきっとこのようにあたたかで愛情に満ちたものだったに違いないとキュリオはそう確信した――

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