【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
愛おしさと苛立ちと…
ひとあし遅れて執務室へと到着した女官たちは不機嫌そうなキュリオの様子に戸惑いながら入口で待機している。
「……お茶をお持ちしましょうか……?」
後方にいる若い侍女が気遣うように女官の耳元で呟くと、主を見つめたままの彼女からは「そうしてちょうだい」とだけ言葉が返ってくる。すると、それを聞いた他の侍女たちは若い侍女に倣って急ぎ足で階段を降りて行ってしまった。最初の若い侍女は気を利かせたのだろうが、ともに連れ立っていった他の侍女たちはこの重苦しいキュリオの無言の苛立ちに居た堪れなくなったに違いない。彼が不機嫌であることなど滅多にないため、皆どうしてよいかわからないのだ。
当のキュリオは執務用の椅子に腰をかけ、肘をつき右手の甲を頬に押し当てながらじっと外の風景を見つめている。風になびく美しい銀髪が頬をかすめるが、彼は気にした様子もなく……ただ膝の上にいる小さな少女を愛でるように左手だけがゆっくり動いていた。そんな王の腹部あたりに頬を寄せて目を閉じている赤子は、背をなでる彼のあたたかい手のひらに安心しきって穏やかな寝息を立てている。
(使者が到着するのはもう間もなくか……)
そのとき、手元の愛しいぬくもりがモゾモゾと小さく身じろぎしたが、どうやら目覚めたのではなく寝返りを打とうとして……諦めた。というような可愛らしい仕草だった。
「……アオイ、この格好は苦しくないかい?」
「…………」
完全に寝入っている彼女からの返答はなく、規則正しい寝息が聞こえるばかりだ。自然とキュリオの意識が幼子に向けられると、その視線と彼を包む雰囲気はどこまでも柔らかく愛情に満ちたものへと変化していく。
「長い時間連れまわして悪かったね。ともに部屋へ戻ろう」
起こしてしまわぬようそっとその身を抱きかかえゆったりとした足取りで執務室を出ていく。茶の用意をして戻ってきた侍女は女官の指示を受け、頷いて王の寝室へとトレイを運ぶ。そこには温めてきたばかりのミルクボトルも用意されており、目の前を行くふたりのようにほのかな甘い香りを漂わせていた――。
「……お茶をお持ちしましょうか……?」
後方にいる若い侍女が気遣うように女官の耳元で呟くと、主を見つめたままの彼女からは「そうしてちょうだい」とだけ言葉が返ってくる。すると、それを聞いた他の侍女たちは若い侍女に倣って急ぎ足で階段を降りて行ってしまった。最初の若い侍女は気を利かせたのだろうが、ともに連れ立っていった他の侍女たちはこの重苦しいキュリオの無言の苛立ちに居た堪れなくなったに違いない。彼が不機嫌であることなど滅多にないため、皆どうしてよいかわからないのだ。
当のキュリオは執務用の椅子に腰をかけ、肘をつき右手の甲を頬に押し当てながらじっと外の風景を見つめている。風になびく美しい銀髪が頬をかすめるが、彼は気にした様子もなく……ただ膝の上にいる小さな少女を愛でるように左手だけがゆっくり動いていた。そんな王の腹部あたりに頬を寄せて目を閉じている赤子は、背をなでる彼のあたたかい手のひらに安心しきって穏やかな寝息を立てている。
(使者が到着するのはもう間もなくか……)
そのとき、手元の愛しいぬくもりがモゾモゾと小さく身じろぎしたが、どうやら目覚めたのではなく寝返りを打とうとして……諦めた。というような可愛らしい仕草だった。
「……アオイ、この格好は苦しくないかい?」
「…………」
完全に寝入っている彼女からの返答はなく、規則正しい寝息が聞こえるばかりだ。自然とキュリオの意識が幼子に向けられると、その視線と彼を包む雰囲気はどこまでも柔らかく愛情に満ちたものへと変化していく。
「長い時間連れまわして悪かったね。ともに部屋へ戻ろう」
起こしてしまわぬようそっとその身を抱きかかえゆったりとした足取りで執務室を出ていく。茶の用意をして戻ってきた侍女は女官の指示を受け、頷いて王の寝室へとトレイを運ぶ。そこには温めてきたばかりのミルクボトルも用意されており、目の前を行くふたりのようにほのかな甘い香りを漂わせていた――。