【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

キュリオとアオイ、親子として

「お前と迎える何気ない今この時でさえ私の心は喜びに満ちている」

ガーラントと侍女の出て行ったキュリオの寝室では、アオイと見つめ合っている五大国・第二位の王の姿があった。
 家族として誰かを受け入れることがこんなにも素晴らしいものだとは彼自身思ってもみなかった。家族と呼べる肉親は人の一生分の生涯を終え、すでにこの世に存在していない。実に五百年ぶりとなるにも関わらず、なんの躊躇(ためら)いもなかったのは気まぐれなどという軽い気持ちからではないことがわかる。

「愛せると思ったから娘として受け入れたわけじゃない。君を愛しているからこそ傍に居て欲しいんだ」

「……身勝手な私を君は責めるだろうか……?」

決定権のない赤子のアオイは、国随一の権力を持つキュリオの前では成す術など持ち合わせているはずがない。彼女に選択肢がうつるとすれば、それは物心がついた数年後。事情を知った彼女がどう判断するかにかかっている。

(もし将来アオイに拒絶されてしまったら……)

そう思うと少し怖くもあった。親子の縁を絶たずとも、アオイがこの城での生活が嫌だと言い出したら彼女の好む環境へと生活の拠点をうつしてもいい。

「アオイの笑顔が陰ってしまわぬよう、私はどんなことでもするつもりだ」

「……?」

キュリオを見つめているアオイの瞳は月光の下で変わらず優しい光を放っている。そんな赤子にも魅入られ、目が離せないキュリオには父親らしい感情も芽生え始めている。

「いまのアオイも魅力的だが、早く言葉を交わしてみたい。君がなにを思ってなにを感じているか……私に教えておくれ」

問うように小さく首を傾けてみると、さらさらと流れた艶やかな銀の髪。それに反応した赤子はゆっくり手を伸ばし、撫でるように指先を動かしている。そして指に触れたキュリオの髪が再び揺れ動くたびに彼女は興奮したように声をあげる。

「きゃぁっ」

(動くものに興味を向けるのは成長の証だ)

彼女が赤子のうちにたくさんのものをその目にうつし、感性を磨いてやろうと考える。しかし人と接する機会が少ないなど、その心に偏りがあってはならない。

「傍にいるのが大人たちばかりではお前も退屈だろう。やはり子供は子供と交流する機会を持たなくてはいけないね」

目を閉じたキュリオは吸い付くような頬へ優しく口づけを落とすと、ゆっくりアオイのラビット服を脱がす。そして自らも身に纏う衣を脱ぎ捨てると室内にある湯殿へと足を向けた。するとわずかな冷気を感じた赤子の体が一瞬強張る。彼女のしっとりと潤う柔らかな肌を胸元に感じながら、その体が冷えてしまわぬよう大きな腕で包み込んだ。

「湯浴みへ行こう」

歩き出したキュリオの顔を真ん丸な瞳が見上げ、やがて肌から伝わってくる彼の温もりに安心したように体の強張りを解き、上機嫌そうな声が響いた。
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