【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
「数十年前、エデン王がキュリオ様を訪ね、悠久をおとずれたことがある。武芸達者なエデン王じゃからの、稽古場を覗いていた際に若かりしブラストと意気投合したという話は儂も知っておる。じゃがその話からするに……その後も交流があったということかのぉ?」

「そうだっ! エデン王凄かったぜっ!! すっげつえぇんだろうなあの人っ!!」

思い出したようにカイが興奮しながら捲し立てる。やはり戦士としての血が騒ぐのか、あの猛々しい稲妻を思わせる力強さが忘れられないようだ。

「うむ。エデン王は立派なお方じゃ。あの国は統制もとれておる。カイよ、言葉は交わしてきたか?」

「お、おう! まぁ……躾がなってないって言われちまったけどな……"立派な悠久の剣士になれ。役目を与えられて一人前というものではない。やり遂げてこそ一人前というものだ"って言われたぜ!!」

腕組みをしてエデン王を真似たカイが胸を張って言ってのけると、ははっと笑うアレスとガーラント。

「あのお方は一言ひとことに重みがある。色々なことを見聞きしているぶん、物事を見極める目は人一倍なんじゃよ」

「……色々なことを見聞きしている?」

含みのある大魔導師の言葉にカイが首をかしげる。さらにエデン王とのやりとりを思い出したアレスが口を開いた。

「そうだ……途中エデン王は"俺の…いや、俺達の永遠の恋人が"って言っておられました。そのときの彼はなんだか悲しそうな顔をしていて……もしかしてその事と関係があるのですか?」

おそらくアレスの言葉は的を得ていた。しかしガーラントは頷かない。

「儂もよく知らんのじゃ。エデン王が自らの口で説明せんかぎり、真実は彼の胸の中じゃよ。もしそれが関係しておったとしても、あのお方の信頼を得ていない儂らには話してくれることは何もないだろうて」

視界の端で落胆しているカイの肩に手を置いたガーラントは"エデン王と会えただけ幸運じゃよ"と彼を慰めている。

(ガーラント先生は詳しくは知らないのかもしれない。でも私たちに言えない何かを知っているのは確かだ。……エデン王とブラスト教官、か……)

現時点で手元にあるヒントはあまりにも少なく、きっと何にも辿り付かない。しかし辿り着いたからといって、どうしたいわけでもなく……

(行動を起こすことがあるとすれば目的がなければ……それこそ"明確な信念"か。
しかし……エデン王はどの王よりも人間らしいところがある気がするのは何故だろう……)

< 89 / 212 >

この作品をシェア

pagetop