【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
キュリオの油断
「夕食はここでとろう。明日からは広間にアオイの椅子も用意させ、人と環境に慣れさせるのもいいな」
部屋の外で待機していた侍女へ夕食を運ぶよう指示を出すと、ほどなくして食事を運んできた女官たち。キュリオは濡れた髪に風を通しながらそのうちのひとりへ先ほどの考えを話すと――
「ええ、御用意は整っておりますわ。キュリオ様」
と満面の笑みを浮かべた彼女。その言葉にキュリオが不思議そうに目を丸くしていると、
「キュリオ様を見ていればわかります。この子が来てからずっと、お傍を離れようとなさらないんですもの」
女官は聖母のように上品に微笑み、自身の腕の中で大人しくしている赤子の襟元を優しくなおした。
「…………」
アオイに集中するあまり、他人の目を気にすることなく行動していたのだと気づかされる。
(いや、それが私の行動を先読みして動く彼女らの仕事であるというのなら当然かもしれないが……)
急に考え込んでしまった銀髪の王に、居合わせたほかの侍女たちも優しい眼差しを向けてくる。
「どう申し上げたらよいかわかりませんが、わたくしたち皆、これがおふたりの一番幸せな選択だと思っておりますわ。ですから全力でお手伝いさせていただきます」
その言葉を切り口に、彼女と背後にいる数名の侍女たちが一斉に#恭__うやうや__#しく頭を下げた。
(私も軽率だった……)
キュリオは恥ずかしそうにコホンと咳払いをすると、いつものように毅然とした眼差しで言葉を発する。
「あぁ、よろしく頼む」
退出していく彼女らを見送り、踵を返してテーブルへ視線を向けると、赤子用の足の長い椅子が設置されていることに気づく。そしてその上に座っているアオイ。驚かせぬようゆっくり近づき視線を合わせるように片膝をつく。
「椅子に座らせるとお前のぬくもりが感じられないのは寂しいな」
その言葉を知ってか知らずかニコリと笑った赤子はキュリオに触れようとその手を伸ばしてきた。
「アオイもそう思ってくれているのかい?」
彼女の手が彷徨ってしまわぬよう、手を差し伸べるとやがて触れた互いの指に安心した表情を浮かべるアオイ。
「どんな美しい風景より、お前の笑みは私の心を震わせる。食事をとるのが惜しいくらい一刻(いっとき)も目を離したくないほどにね」
赤子用の椅子に両肘をつき、アオイと額を重ねるキュリオ。しかし、いつまでもそうしているわけにもいかず彼はあたためられたミルクボトルを手にし、結局彼女を腕に抱きながら食事を始めるのだった。
部屋の外で待機していた侍女へ夕食を運ぶよう指示を出すと、ほどなくして食事を運んできた女官たち。キュリオは濡れた髪に風を通しながらそのうちのひとりへ先ほどの考えを話すと――
「ええ、御用意は整っておりますわ。キュリオ様」
と満面の笑みを浮かべた彼女。その言葉にキュリオが不思議そうに目を丸くしていると、
「キュリオ様を見ていればわかります。この子が来てからずっと、お傍を離れようとなさらないんですもの」
女官は聖母のように上品に微笑み、自身の腕の中で大人しくしている赤子の襟元を優しくなおした。
「…………」
アオイに集中するあまり、他人の目を気にすることなく行動していたのだと気づかされる。
(いや、それが私の行動を先読みして動く彼女らの仕事であるというのなら当然かもしれないが……)
急に考え込んでしまった銀髪の王に、居合わせたほかの侍女たちも優しい眼差しを向けてくる。
「どう申し上げたらよいかわかりませんが、わたくしたち皆、これがおふたりの一番幸せな選択だと思っておりますわ。ですから全力でお手伝いさせていただきます」
その言葉を切り口に、彼女と背後にいる数名の侍女たちが一斉に#恭__うやうや__#しく頭を下げた。
(私も軽率だった……)
キュリオは恥ずかしそうにコホンと咳払いをすると、いつものように毅然とした眼差しで言葉を発する。
「あぁ、よろしく頼む」
退出していく彼女らを見送り、踵を返してテーブルへ視線を向けると、赤子用の足の長い椅子が設置されていることに気づく。そしてその上に座っているアオイ。驚かせぬようゆっくり近づき視線を合わせるように片膝をつく。
「椅子に座らせるとお前のぬくもりが感じられないのは寂しいな」
その言葉を知ってか知らずかニコリと笑った赤子はキュリオに触れようとその手を伸ばしてきた。
「アオイもそう思ってくれているのかい?」
彼女の手が彷徨ってしまわぬよう、手を差し伸べるとやがて触れた互いの指に安心した表情を浮かべるアオイ。
「どんな美しい風景より、お前の笑みは私の心を震わせる。食事をとるのが惜しいくらい一刻(いっとき)も目を離したくないほどにね」
赤子用の椅子に両肘をつき、アオイと額を重ねるキュリオ。しかし、いつまでもそうしているわけにもいかず彼はあたためられたミルクボトルを手にし、結局彼女を腕に抱きながら食事を始めるのだった。