【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
エデン・永遠の恋人 ※
白銀の鎧をその身に纏った<雷帝>エデンは大きな翼を広げ閃光さながらの速さで移動している。彼はこうして永遠の恋人へ会うため、時折……とある場所へ足を運んでいるのだ。
どれほど飛び続けていただろう。重く圧し掛かる灰色の雲を抜け、ようやく豊かな大地が顔を覗かせると思いきや、眼下に広がるのは痩せた荒野ばかりだ。さらに冷気を含んだ鋭い風は勢いを増すばかりで、まるで歓迎されていないかのような錯覚を覚える。
しかしエデンは迷うことなくただ一点を目指し速度をあげていく。彼の背に光輝く力強い翼は重量感のある<雷帝>の体をもろともせず目的地を目指して運ぶ。
やがて見えてきたのはひっそりと佇む廃墟のような建物だ。もはや住人などいないのではないかと思えるほどに寂(さび)れており、中庭とおぼしき場所には瓦礫が散乱している。
「…………」
翼を消したエデンは無言のまま降り立つと、わずかに香る清らかな水の流れる場所へと足を向けた。
枯れた草木を足の裏に感じながら歩くと辺りには乾いた音が響き、命の欠片さえここには芽吹いていないのだと思い知らされる。
「……前よりもひどくなっているな」
見つけたのは噴水だったと思われるオブジェの姿。いまでは見るも無残に崩れており、ただの瓦礫の隙間から水があふれ出しているようにしか見えない。
さらに堀の深い彫刻のようなエデンの顔に吹き付けるのは冷たい灰色の風だ。それが運んでくるのは楽しそうな鳥たちの声でもなく、人々の活気ある生活の音でもない。それがかつての賑(にぎ)わいを知るエデンの表情をさらに険しいものへと変えてゆく。
記憶を辿りながら中庭を歩いていると、腹の底から響くような雷の音が遠くに聞こえはじめ、上空を仰ぐ。悲しみの色を浮かべた彼の瞳は穏やかだった頃のこの地の美しさを鮮明に覚えている。
頭上には澄み渡る青い空に、眼下に広がるのは色彩豊かな満開の花々。もはやその面影を探すことはできず、彼の心に暗い影を落としていった。
「エデン殿……?」
戻らぬ過去に想いを馳せていると背後から聞き覚えのある声がかかり、<雷帝>はゆっくり振り返った。そしてそこに立っていたのは……彼の永遠の恋人をよく知る青年のひとりだった――――。
どれほど飛び続けていただろう。重く圧し掛かる灰色の雲を抜け、ようやく豊かな大地が顔を覗かせると思いきや、眼下に広がるのは痩せた荒野ばかりだ。さらに冷気を含んだ鋭い風は勢いを増すばかりで、まるで歓迎されていないかのような錯覚を覚える。
しかしエデンは迷うことなくただ一点を目指し速度をあげていく。彼の背に光輝く力強い翼は重量感のある<雷帝>の体をもろともせず目的地を目指して運ぶ。
やがて見えてきたのはひっそりと佇む廃墟のような建物だ。もはや住人などいないのではないかと思えるほどに寂(さび)れており、中庭とおぼしき場所には瓦礫が散乱している。
「…………」
翼を消したエデンは無言のまま降り立つと、わずかに香る清らかな水の流れる場所へと足を向けた。
枯れた草木を足の裏に感じながら歩くと辺りには乾いた音が響き、命の欠片さえここには芽吹いていないのだと思い知らされる。
「……前よりもひどくなっているな」
見つけたのは噴水だったと思われるオブジェの姿。いまでは見るも無残に崩れており、ただの瓦礫の隙間から水があふれ出しているようにしか見えない。
さらに堀の深い彫刻のようなエデンの顔に吹き付けるのは冷たい灰色の風だ。それが運んでくるのは楽しそうな鳥たちの声でもなく、人々の活気ある生活の音でもない。それがかつての賑(にぎ)わいを知るエデンの表情をさらに険しいものへと変えてゆく。
記憶を辿りながら中庭を歩いていると、腹の底から響くような雷の音が遠くに聞こえはじめ、上空を仰ぐ。悲しみの色を浮かべた彼の瞳は穏やかだった頃のこの地の美しさを鮮明に覚えている。
頭上には澄み渡る青い空に、眼下に広がるのは色彩豊かな満開の花々。もはやその面影を探すことはできず、彼の心に暗い影を落としていった。
「エデン殿……?」
戻らぬ過去に想いを馳せていると背後から聞き覚えのある声がかかり、<雷帝>はゆっくり振り返った。そしてそこに立っていたのは……彼の永遠の恋人をよく知る青年のひとりだった――――。