会いたい
「楓さん、大丈夫?」

MAKIDAIが心配そうに覗き込む。

現実を受け入れるにはもう少し時間が必要かもしれない。

「う、うん。大丈夫、大丈夫」

自分に言い聞かせるように、胸に手を当ててまた深呼吸。

「スリッパ、どうぞ」

足元に出されたスリッパに可愛い犬の刺繍。

「あ、可愛い」

「これ、楓さん専用」

「専用?」

「そう、これから東京来た時はいつでもうちに泊まればいいよ」

楓は、スリッパを履いて刺繍を上から横からと見て笑顔になった。

「ありがとう」

MAKIDAIの顔を見るといつもと変わらない笑顔。

楓は、肩の力がすっと抜けた。

「なんか、私、一人で緊張しちゃってバカみたいだね」

MAKIDAIは、優しく微笑むと、

「自分の家だと思って、くつろいでよ」

と言って、楓の肩を抱いた。

余裕ぶっているが、MAKIDAIも楓が来るとなってから動けない自分に変わって工藤に大掃除を頼んだり、何かとバタついたがとりあえず今日は言わずにおこうと思った。

「さぁ、中へ入って」

案内された、リビングは楓の家のリビングよりも何倍も広く、窓からは東京の街の夜景が見える。

「すごい広いリビング」

「うん。でも、一人で住むにはちょっと広すぎるけどね」

「そうなんだ」

楓からしたら、うらやましい限りだが、

「いつか広い部屋に住みたいって思ってたけど、実際は…狭い方が何かと便利でさ」

楓は、世の一人暮らしの男性の生活を想像した。

「手を伸ばせば、何にでも届くから?」

と言って、笑った。

「正解!あと、掃除もね」

MAKIDAIは、身の回りの事はあまり几帳面ではない方なので、掃除は苦手なようだ。

「なるほどね。確かに掃除は大変かも。でも、今の便利なものがいろいろあるから」

「まぁね」

実際に普段の家の掃除は、ハウスキーパーさんに任せている。

「とりあえず座って、ゆっくりして」

「ありがと」

MAKIDAIに勧められて、ソファに腰掛けると、MAKIDAIも楓の隣に座った。
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