神様修行はじめます! 其の五
 あたしは絹糸の首根っこを引っ掴んでグィッと持ち上げ、その鼻先に向かって夢中で怒鳴った。


 あるのかないのか、ハッキリして!


 いまは藁にもすがりたいほど、溺死寸前な状況なんだから!


「順当に考えれば、あの場所の、あの橋の下の可能性が一番高いんじゃよ。じゃがそうなると、逆にのぅ……」


「場所ってどこ!? 橋ってなに!? もっとストレートに、簡潔に、かつダイレクトに説明して!」


「異界じゃよ」


「ごめん! ダイレクトすぎて意味わかんない!」


「門川の敷地内に、異界が存在しておるのじゃ。ここに来る途中で渡った、太鼓橋の下にな」


 乱暴につまみ上げられてプランプランと体を揺らしながら、絹糸がそう言った。


 あたしは、ちょうど自分の目の前にあるアーモンド形の金色の目を眺めながら、キョトンとしてしまう。


 異界? この敷地内に? つーかあたしにとっては、ここがすでに異界みたいなもんなんだけど。


 ここを基準にして、さらに異界って、どんだけハイレベルな異界なんだろう?


「その異界は、小浮気一族にとって所縁のある場所でもある。のぅ? 小浮気よ」


 ポツンと集団から外れた所で、肩を落として背中を丸めているクレーターさんに、絹糸が話しかける。


 魂をどっかに半分持っていかれちゃったような表情で、クレーターさんがコクリとうなづいた。


「そうだ。あの場所はその昔、我ら小浮気一族が暮らしていた場所なのだ」


 暮らしていた? だってそこ、異界なんでしょ? 小浮気一族のご先祖様って、そんな物騒な所に住んでいたの?


 あれ? それはともかく、ちょっと待てよ?


「ねぇ絹糸、太鼓橋の下って、たしか……」


「そうじゃ。お前も知っての通り、あの下は人知の及ばぬ世界。我ですら未知の場所なのじゃ」
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