神様修行はじめます! 其の五
 うん、そう。あの太鼓橋の下は、普通じゃない。


 普通、橋の下って川が流れてるよね? でもあの太鼓橋の下には、なにも流れていないんだよ。


 本当に文字通り、なにもないんだ。


『暗黒』以外は。


 一寸先も見えない闇夜のような、底の知れないドス黒い空間が、下へ下へと広がっているだけ。


 しかも奥底の方から、いつも『ウオォォー……ン』って、なんかヤバめな遠吠えみたいな音が、ひっきりなしに響いている。


 あんな所に小浮気一族って暮らしてたの? うえ、住み心地悪そう……。


「元からああだったわけではない。昔は、えも言われぬほど美しい、光り輝く清水が流れておったんじゃよ」


「そうなの? 現状からだと、とても想像できないけど」


「あの水は特別な水じゃった。この世であの橋の下にしか存在せぬ、不可思議な力を秘めた水であった」


「じゃあ小浮気一族って、その水の下に海底都市を作って住んでたの? まるでSFだね」


「水の下に住んでいたのではない。水の『中』に住んでおったんじゃ」


「……へ? 水の、中??」


「小浮気一族は、魚のように水の中でも生きられるし、我らのように地上でも生きられる一族じゃ」


「えー!? それってまるきり、両生類じゃん!」


 あたしはクレーターさんを見ながら大声を出した。


 じゃあこの人って、カエルとかヤモリとか、サンショウウオと同じってこと? エラ呼吸も肺呼吸もできるんだ。


 すごい! ただのハゲじゃなくて、使えるハゲなんじゃない!? ちょっと見直したよ!


「水とは『生み出し、育むもの』なのだ。その水の特性を持つ我らだけが、太鼓橋の下の特殊な水を使って、宝物を創り出すことが可能だった」


「すごい能力じゃん! やっぱり使えるハゲ……ごほん、男なんだね! クレーターさんって!」


 あたしがこうして手放しで褒めてるのに、クレーターさんは沈んだ顔をしている。


 なんだか、ひどく苦い過去を思い出しているような、そんな重々しい表情だった。
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