神様修行はじめます! 其の五
 うええぇ? あ、明かりぃ……?


 口を両手でグッと覆いながら下を見れば、たしかにセバスチャンさんの言う通り。


 ずーっと底の方から薄ボンヤリとした光が、ぽわぁっと見えてくる。


 光度自体はそんなに強くないけど、なにしろここは、口に当てた自分の指先すら見えないほどの暗黒世界。


 その中で見つけた光は、蛍の光みたいなささやかな明かりでも、テンションを急上昇させてくれた。


「ね、もしかしたら門川君、あそこにいるんじゃない!?」


「この近くで戦闘が行われている気配もないようじゃな。よし、あの場所へ向かうぞ」


 絹糸が明かりに向かって、真っ直ぐに急降下していく。


 でも、どれほど降りてもなかなか明かりに近づかないし、周りにも何の変化も見えない。


 うぅー。なんか、スーパーマリオの無限ループステージに嵌ったみたいな、やっちまった感……。


「ねぇ絹糸、ちゃんと近づいてる? この辺ってどれくらいの深度なのかな?」


「分からぬ。深度という感覚すらも、この異界には当て嵌まらぬのやも知れぬな」


 それでも少しずつ少しずつ、周囲の様子が見えるようになってきた。


 ホッとしながら様子を窺えば、小さく頼りなかった光は、広範囲をユラユラと淡く照らしてくれている。


 でも目に見えるのは、暗い色に染まった水だけ。


 ボンヤリした、黒味の強い青色の世界が目の前に広がり、所々に白い光が泡のように生まれては、忙しく消えていった。


「綺麗……と言っていいものか、悩みますわね」


「たしかに綺麗なのは綺麗なんですけど、ゾクゾクとした寒気も感じます」


「なんか、独特な雰囲気だよね。なんにも聞こえないのに、さっきから耳の奥で『静寂』って名前の音が、うるさく響いてる」


 おかしな言い方だけど、そうとしか表現しようのない感覚なんだ。


 やっぱりここは、普通じゃない。


「水底は異界じゃ。人とは違った形で生きる命の世界。おぬしらとは相容れぬ部分と、わずかに許される部分が混じり合うておる」
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