神様修行はじめます! 其の五
 絹糸の言葉を示すように、水が、陽炎のように揺らめいて踊っている。


 トロリ、トロリと蠢く空間が、あたしの目というフィルターを通して、流れる音の姿を『見せている』気がする。


 まるで、見える耳鳴りだ。うわんうわんと、グラスハープが重なり合う音のような、そんな息遣いが頭の中で反響している。


 あぁ、暗い。こんなに、ほの暗い。

 そして遠くて、あんなに近くて、青くて、黒くて、どこまでも鳴り響いて……


 引きずり……込まれ……そう……。


「誰かいますわ!」


 お岩さんの叫び声が聞こえて、意識を失いかけていたあたしの目がハッと見開かれた。


 え!? 誰!? もしかして門川君!?


 薄暗い視界の中で必死に目を凝らすと、あたしたちの真横を、いきなり白い人影がヒュッと通り過ぎて行った。


 うわ! なんだビックリした! 一瞬、幽霊かと思った!


「門川君!? ……じゃ、ないよね?」


 ほんの一瞬しか見えなかったけど、あれは違う。門川君じゃなかった。


「いまのは、永久様じゃありませんわ」

「ま、まさか幽霊じゃないよね?」

「見てください! あそこにも!」


 凍雨くんの声と同時に、また白く光る人影が、反対方向からヒュンヒュン連続で流れてくる。


 まるで流れ星みたいだ。ペルセウス流星群ならぬ、幽霊流星群!?


「向こうにもいますわ!」

「あちらにも見えるでおじゃる!」

「そっちにもいますよ!? どうなってるんですか!?」


 上にも、下にも、左右にも、何人も何人も。


 気がつけばあたしたちは、大勢の白い人影たちに周囲をグルッと取り囲まれていた。


 いつの間に!? しかもこんなに大勢!? しかもしかも、この人たちって……。


「小浮気一族じゃん!」


 そうだ。この純白の袴姿は、間違いなく小浮気一族だ。


 でも一族って、いまは地上に住んでるんじゃなかったっけ?


 まだこんな所に住み続けている根性のある人がいたの? そんな物好きな。


「クレーターさん、この人たち、お仲間? クレーターさんのこと、律儀にお出迎えに来てくれたの?」
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