神様修行はじめます! 其の五
 転がるように前のめりになって、一目散に宝物庫へと向かう。


 実際、何度か思い切り転げてしまった。


 すぐさま這い上がり、手足の傷や痛みも気にせず、土埃だらけの衣装でまた走り出す。


 凄まじい形相で、なりふり構わず突っ走る成重の姿を、行き交う人たちが驚いた顔で眺めていた。


 いまにも破裂しそうな心で祈るのは、『どうか間に合ってくれ』と、ただそれだけ。


 まさか、水晶が犠牲者に選ばれてしまうなんて。


 心優しい水晶のことだ。自分の身代わりに仲間が犠牲になるなど、とうてい受け入れられなかったのだろう。


 だからと言って、あなたがこの世界から消えてなくなるなど……!


 息せき切ってようやく駆けつけた宝物庫の周辺には、複数の人影があった。


 小浮気の用人たちが巨大な建物を取り囲むようにして立ち、両手を頭上高く掲げている。


 おそらく手に持った宝物の力で結界を張って、部外者の侵入を防いでいるのだろう。


 その中のひとりに顔なじみを見つけた成重は、大声で叫びながら駆け寄った。


『水晶殿が犠牲者に選ばれてしまったというのは、本当ですか!?』


 蛟との連絡係を担っていたその用人は、ひどく驚いた表情で成重の汗まみれの顔を見つめた。


 そして赤く泣きはらした目元を歪めて、視線を逸らして口ごもる


『な、成重様? なぜここに?』


『結界を解いて、私を中へ入れてください! お願いします!』


 用人の両肩を激しく揺さぶりながら懇願した。


 だが彼は、視線を逸らしたまま弱々しく首を横に振るばかり。


『なりません。儀式の最中はなにがあろうと、誰であろうと、通せぬ掟でございます』


『そんなことを言っている場合ではない! 水晶殿が死んでしまう!』


『どうか水晶様の、尊いお気持ちを無駄になさらないでくださりませ』


『私は水晶殿を愛している! 今日は水晶殿に結婚を申し込むつもりだったのです!』


 用人は目を見開き、成重を振り返った。


『なのに……なのにあなたは私に、水晶殿が死んでいくのを手をこまねいて見ていろと言うのか!?』
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