神様修行はじめます! 其の五
 ―― ピクッ……!


 門川君の柳眉がビリッと反応した。


 冷徹な美貌が瞬く間に陰に染まり、瞳の色がスーッと薄まって、そして……


 ―― ビシィィーーーーー!


 なんと数百畳の大広間全体と、ここにいる全員が、ほんの一瞬で真っ白な霜にビッチリ覆われてしまった!


 ぎゃー!? 視界全体が食肉用冷凍庫!?


 門川君から発せられる冷気と圧力が、天井知らずに倍増しているー!


 地雷スイッチオンされた門川君の顔ったらもう、目が座っちゃって、完璧に敵キャラ状態。


 辺り構わず冷圧をブッ放ちまくって、オーバードライブ絶賛発動中。


 当然、隣のあたしの被害が一番甚大で、ノドまでカサカサに凍みついてしまって悲鳴すら上げられない。


 ねぇ門川君、お願いやめて!


 あたし、花嫁衣裳を着るヒマもなく凍死しちゃうから、もうやめてくださいぃー!


「皆様、どうぞお鎮まりください」


 突如、穏やかな声が響いた。


「忠臣の進言も、過ぎれば仇となりましょう。お控えなさいますように」


 アンデルセンの雪の女王みたいになっちゃってる門川君と、戦々恐々としている当主たちが、すかさず反応する。


 その聞き覚えのある声に、カチカチに凍えていたあたしもハッと目をやった。


 忘れもしない、この声は……。


「当主様、なにとぞお怒りを御鎮めくださいますよう、平にお願い申し上げます」


 深々と下げていた頭をゆっくりと上げ、顔を見せた、その男は……。


 蛟 成重(みずち なりしげ)。


 前回の常世島の騒動を裏で操り、望み通りの戦果をまんまと手中にした、最要注意人物。


 ブラックリストナンバーワンの、超地味男くんだ。
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