神様修行はじめます! 其の五
『だから何度も言うたであろう? 助かりたければ、そう申せと』
蛟の父が、手に持った扇子でスッと水晶を指し示す。
『よいのだぞ? 自分の代わりに姉の命を使ってくれと、ひとこと申せば事足りる』
『まこと、父上のおっしゃる通り。姉を儀式に使われるのが嫌ならば、その他の者を数人まとめて差し出してもよいのだ』
『道は選べる。我らはちゃんと、慈悲を示しておるのじゃ』
扇子の先をヒョイヒョイと動かし、事もなげに繰り返す。
『いまのうちじゃぞ? 自分で選ぶがよい。自分の命は、自分で守れ』
扇子の動きに釣られるように、水晶の瞳が揺れ動く。
やがて目元が震え出し、みるみる潤んだかと思うと、透明な大粒の涙がボロボロと頬に零れ落ちた。
わななく唇から悲痛な泣き声が漏れ出し、縛り付けられてまともに動かない首を、水晶は懸命に振ろうとしている。
その仕草が、言葉にならぬ彼女の思いを代弁していた。
そんなことは、できないと。
……できるわけがない。言えるわけがない。
自分の姉に向かって、私の代わりにあなたが死んでくれなどと。
自分よりも姉を選ぶしかなかった父親を、責めたてるような言葉など。
一族の他の人間の命を身代わりに差し出すから、どうか自分を助けてほしいなどと。
他の誰あろう、あの水晶という人間が、そんなことを望めるはずがないではないか!!
それを……
あえてそれを、言えと強要したのか!? 私の父と兄が!!
『……鬼か!?』
成重は地に拳を叩きつけ、泣きむせび、荒れ狂う感情の塊りを吐き出すように喚いた。
蛟の父が、手に持った扇子でスッと水晶を指し示す。
『よいのだぞ? 自分の代わりに姉の命を使ってくれと、ひとこと申せば事足りる』
『まこと、父上のおっしゃる通り。姉を儀式に使われるのが嫌ならば、その他の者を数人まとめて差し出してもよいのだ』
『道は選べる。我らはちゃんと、慈悲を示しておるのじゃ』
扇子の先をヒョイヒョイと動かし、事もなげに繰り返す。
『いまのうちじゃぞ? 自分で選ぶがよい。自分の命は、自分で守れ』
扇子の動きに釣られるように、水晶の瞳が揺れ動く。
やがて目元が震え出し、みるみる潤んだかと思うと、透明な大粒の涙がボロボロと頬に零れ落ちた。
わななく唇から悲痛な泣き声が漏れ出し、縛り付けられてまともに動かない首を、水晶は懸命に振ろうとしている。
その仕草が、言葉にならぬ彼女の思いを代弁していた。
そんなことは、できないと。
……できるわけがない。言えるわけがない。
自分の姉に向かって、私の代わりにあなたが死んでくれなどと。
自分よりも姉を選ぶしかなかった父親を、責めたてるような言葉など。
一族の他の人間の命を身代わりに差し出すから、どうか自分を助けてほしいなどと。
他の誰あろう、あの水晶という人間が、そんなことを望めるはずがないではないか!!
それを……
あえてそれを、言えと強要したのか!? 私の父と兄が!!
『……鬼か!?』
成重は地に拳を叩きつけ、泣きむせび、荒れ狂う感情の塊りを吐き出すように喚いた。