神様修行はじめます！　其の五
『もはや、なにを言っても術式は止まらぬ。儀式は行われるしかない』


　術陣を中心にして、力場が変化していく気配が増し、緊迫感のある耳障りな音が空間に響き始めた。


　それにつれて地面に浮かび上がる紋様が、ひときわ白さを増す。


　輝きが増した分、水晶の体がくっきりと浮かび上がり、苦悶に目を剥く表情が手に取るように見えた。


『が……ぐ……うぅぅ……！』


　ノドの奥から絞り出される、悲痛な呻き声。


　水晶の体液すべてが、一気に別の物質に創り変えられようとしている。


　その苦痛は如何ばかりか、想像もできない。


　縛り付けられた体では身じろぎすることも許されず、水晶は、恐ろしい苦しみを受けいれることしかできなかった。


『ぐううぅぅーーーーー！』

『水晶ーーーーー！』


　水晶の悲鳴と、成重や小浮気の叫び声が混じった。


　矢も楯もたまらず、成重が術陣の中に再び飛び込もうとする。


――　バチバチバチーーー！


　先ほど吹き飛ばされたときとは比較にならない強烈な刺激と痛みが、成重の全身を槍のように突き刺した。


　ゴロゴロと床に転がる成重の衣装は破れ、あちこちの皮膚が無残に裂け、真っ赤な血が流れだす。


　のけ反って激痛に耐える彼の耳に、水晶の甲高い悲鳴が聞こえた。


『ああああぁぁぁーーー！』


　術陣の光度が急速に増していく。真っ白に、目を突くほどに眩しく輝いていく。


　耳障りな音が、張りつめた力場がどんどん加速して、追いつめられた水晶の体が小刻みにブルブルと痙攣していく。


　不意に、その目から零れる涙の色が変化した。


　赤や青や黒色の、丸や四角や星形の、見たことのない得体の知れぬ物質に変化して、ボロボロ床に落ちて硬質な音をたてた。
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