神様修行はじめます! 其の五
『おお、なんと素晴らしい! さすがは直系の娘!』


『これならばきっと予想以上の成果が得られようぞ!』


 父と兄の感嘆する声など、もはや耳に入らなかった。


『水晶ーーー!』


 成重は無我夢中で体を起こし、狂ったように叫びながら水晶を助けようと術式に飛び込む。


 だが、術陣を前に成重は無力だった。


 彼の体はあっけなく宙を飛び、また地に叩きつけられる。


 切り裂かれた体から真紅の血が勢いよく噴き出し、その耐えがたい激痛に意識が飛びかけた。


『―――――――!』


 悶絶する水晶と成重の、もはや音にすらならぬ絶叫が、こめかみをビリビリと震わす。


 痛みからか、苦悩からか、悲しみからか、成重の目からとめどなく涙が落ちた。


 それでも成重は血まみれの体で這いずって、父の足にすがりつく。


 そして草履に額を擦り付けながら、最後の望みをかけて哀願した。


『どうか、どうか水晶をお助け下さい! 命ばかりは!』


『…………』


『代わりに私が死にます! どうか、水晶の代わりに私の命を!』


『お前は、馬鹿か?』


 遠い遠い対岸から聞こえるような、蔑んだ声。


 父親は、見下げ果てた目をして息子を見おろし、冷淡に言い放った。


『あの娘は死ねば宝物を残すが、お前が死んでも得にもならぬわ。邪魔な死体がひとつ出来上がるだけじゃ』


 父は邪険に息子の手を足で払う。


 もはや、すがる物もなくなった成重の手が、虚しく地に落ちた。


 焼けつくような涙が迸り、深淵の痛みと絶望が、彼のすべてを覆い尽くす。


 愛する女性が、言語に絶する苦しみに喚く様子をまざまざと見せつけられても、自分はもうなにもできない。


 ただ喚き、呪い、血を吐くように泣き、叫んだ。


 悶え狂うほど天に祈り、正気を失うほど願い、命がけで請うた。
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