神様修行はじめます! 其の五
「…………」
成重の顔をチラリと見た門川君が、その一瞬で我を取り戻し、無言で冷気を収束させていく。
あたしも隣でホッと息を吐きながら、地味男の顔を注視した。
地味男は周囲の動揺も意に介さず、平然とした様子で、堂々たる影の薄さぶり。
ホントにこの人って、言っちゃ悪いけど……
うん、遠慮する義理もないからハッキリ言わしてもらうけど、『ひたすら地味』ってカンジなんだ。
本当に目立たないし、特徴のない平凡な顔をしてるし、存在感がない。
まるで砂山の中の、たったひとつの砂粒みたいに、大勢の中では決して目立たず、単体でも絶対に目を引かないタイプ。
そんな究極のモブキャラが、いま門川君が一番警戒している相手なんだ。
いままでの敵キャラは、良くも悪くも、強烈な個性とカリスマ性に満ちている人物ばかりだった。
なのにこんな、ひっそりと日陰に咲く花のような男が、これまでで一番の強敵だなんて……。
恐ろしい。寒さとは違う底冷えを感じて、腹の下あたりがゾクッとする。
「当主様への皆様の杞憂は、ごもっとも。ですが、これは良き兆候にございますまいか?」
「良き兆候?」
広間全体を覆っていた霜が急速に消滅していくのを見て、当主たちは気を緩めたらしい。
門川君の気を逸らそうとするように、わざとらしいほど地味男の話に興味を示している。
「蛟様、それはどういうことでございますかな?」
「これまで、ご自身のご結婚に無頓着であられた当主様が、ついにご自覚あそばされたのです。これは、めでたきこと」
「そ、それはそうですが、相手にもよりましょう!」
「さよう! 正室の座にふさわしい、それなりの『格』というものがある!」
「それも皆様のおっしゃる通り。ですが彼女は、天内一族最後の生き残りという、希少な血統の持ち主です」
成重の顔をチラリと見た門川君が、その一瞬で我を取り戻し、無言で冷気を収束させていく。
あたしも隣でホッと息を吐きながら、地味男の顔を注視した。
地味男は周囲の動揺も意に介さず、平然とした様子で、堂々たる影の薄さぶり。
ホントにこの人って、言っちゃ悪いけど……
うん、遠慮する義理もないからハッキリ言わしてもらうけど、『ひたすら地味』ってカンジなんだ。
本当に目立たないし、特徴のない平凡な顔をしてるし、存在感がない。
まるで砂山の中の、たったひとつの砂粒みたいに、大勢の中では決して目立たず、単体でも絶対に目を引かないタイプ。
そんな究極のモブキャラが、いま門川君が一番警戒している相手なんだ。
いままでの敵キャラは、良くも悪くも、強烈な個性とカリスマ性に満ちている人物ばかりだった。
なのにこんな、ひっそりと日陰に咲く花のような男が、これまでで一番の強敵だなんて……。
恐ろしい。寒さとは違う底冷えを感じて、腹の下あたりがゾクッとする。
「当主様への皆様の杞憂は、ごもっとも。ですが、これは良き兆候にございますまいか?」
「良き兆候?」
広間全体を覆っていた霜が急速に消滅していくのを見て、当主たちは気を緩めたらしい。
門川君の気を逸らそうとするように、わざとらしいほど地味男の話に興味を示している。
「蛟様、それはどういうことでございますかな?」
「これまで、ご自身のご結婚に無頓着であられた当主様が、ついにご自覚あそばされたのです。これは、めでたきこと」
「そ、それはそうですが、相手にもよりましょう!」
「さよう! 正室の座にふさわしい、それなりの『格』というものがある!」
「それも皆様のおっしゃる通り。ですが彼女は、天内一族最後の生き残りという、希少な血統の持ち主です」