神様修行はじめます! 其の五
「こ、この……下に……」


 散々泣いて、涙も声も枯れたのか、クレーターさんが鼻の詰まったガラガラ声でしゃべりだした。


「この下に、純度の高い水の結晶があるらしいのだ」


 袖で顔全体をゴシゴシ拭いて、自分の足元の下を指さす。


「真偽のほどは分からんが、その結晶は、特殊な水の力の源だという噂がある」


 見れば、底の知れないほど深く暗い深淵から、次々と白い光が泡のように浮かび上がってくる。


 じゃあこの光って、もしかしてその結晶から生まれてる光なのかな?


 蛍みたいに小さいけれど、こんな真っ黒な水の中の唯一の救いみたいに、とても綺麗な光だ。


「もしかして、その結晶のおかげ? ここの水が特殊なのって」


「だから、真偽のほどは分からぬ。見た者はおらんのだ」


「小浮気一族でも、誰も見たことないの?」


「さすがの我らも深海魚ではない。あまり深い場所にはいられぬ」


 そっか。もしかしたら門川君と水園さんは、その結晶を探してるのかもしれない。


「水絵巻を修理するのが目的なら、結晶の力に頼るかもしれませんわね」


「探してみる価値はあろうのぅ」


「行ってみましょう! きっとそこに永久様と水園さんがいますよ!」


 みんなが力強くうなづいた。


 クレーターさんはなにも言わないし、うなづきもしないで、水の底を黙ってながめているだけ。


 でも涙でびしょ濡れのボンッと泣き腫らした目の奥に、たしかな決意の光が見える。


 クレーターさんは、水園さんを守るためにここへ来たんだ。


 思い出話をしに来たわけじゃないし、思いがけずつらい過去と向き合ったとしても、打ちひしがれてる場合でもない。


 いまやるべきは、門川君たちを探すこと。


 あたしも手の平で顔をグシグシ拭って、気合いを入れ直した。
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