神様修行はじめます! 其の五
 クレーターさんの声と心意気に応えるように、絹糸が水底へ向かって移動を始めた。


 周囲が暗いせいで、距離感とかはつかめないけど、かなり深く潜っていってるのが分かる。


 暗い水底からどんどん浮かび上がる小さな白い光が、けっこうなスピードで、あたしたちの横を通り過ぎて行くから。


 底の知れない深度と、不気味な濃い黒と、神秘的な藍。


 そして綺麗な白い光に包まれた異界は、まるで未知の宇宙。


 夜空を飛んでいるような高揚感と、魔界の入り口に突入していくような不安感とが、ごっちゃになってる。


「なんか、さっきから寒気みたいなゾクゾクする感じがして、こそばゆい」


「人間にも我らほどではないにせよ、未知の領分を感知する器官が備わっておるのじゃよ」


「あー、なるほど。それでお尻のあたりがムズムズするんだね!」


「普通、ゾクゾクするのは背中だと思うんじゃがのぅ」


「……天内さんの感覚器官って、お尻に集中してるんですね……」


「お尻か背中かはともかく、周りが明るくなってきてる気がしない?」


 深く潜るにつれて、周囲の明るさが増しているような気がする。


 暗い夜空が朝に向かうにつれて、ゆっくりゆっくり、少しずつ黒味を薄めていくような、そんな感じ。


 きっと白い光の量が、さっきから急に増加しているからだ。


 と、思っている間にも……


「わ、わ? すごい! なにこれ!」


「まるで蛍の群れですわ! なんて美しいのでしょう!」


 お岩さんもあたしも、思わず歓喜の声をあげて周りを見回してしまった。


 だって、本当にすごい! まるで蛍の大群だ!


 クリスマスイルミネーションで飾られた世界に迷い込んで、彷徨っているみたい。


 黒と藍の複雑なグラデーションの視界の中で、小さな光が無数に瞬きながら、上へ上へと泳いでいく。


 まるで光自身、意思を持っているみたい! なんて綺麗!


 もしかしたら夜空のお星さまって、ここから生まれて天に昇っていくのかな!?


 なんて乙女ちっくなこと、一瞬本気で考えちゃうくらい美しい光景だ。
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