神様修行はじめます! 其の五
「なにをしている! 早く行くぞ!」


「小浮気様、いましばらくお待ちくださいませ」


「ただいま麻呂が結界を強化いたしまする。すぐに済みますゆえ」


 宥められても、クレーターさんはますます興奮するばかり。


 口からツバを飛ばす勢いで、大声で喚き立てる。


「そんなことは後にしろ後に! いますぐ水園を助けに行くのだ!」


「小浮気よ、落ち着け。誰も助けに行かぬとは言っていな……」


 ……誰もが、その方向は見ていなかった。


 クレーターさんが、いまにも結界から飛び出しそうに大騒ぎする様子に、みんな気を取られていたから。


 だからまさか、弱ったナメクジみたいな、もう消滅寸前の異形に………


―― ウオォォォ――――ンッ!


 こんな、一発逆転の反撃をするだけの余裕があったなんてー!


「……うぐっ!?」


 体の中を、強烈な衝撃がハヤテのように貫いた。


 異形が放つ渾身の雄叫びが、衝撃波となって襲いかかってきたんだ。


 体中がビリビリ痺れたと思った瞬間、全身の筋肉から、あっけなくスーッと力が抜けていく。


 まともに立ってることもできずに、全員その場にバタバタ倒れ込んでしまった。


 あたしも横倒れになりながら、なんとか目玉だけをキョロキョロ動かして、懸命に状況を把握しようとする。


 しまった! ぜんぜん身動きできない! もう結界は限界だったのに、こんな強烈なのを食らったら……!


―― ピッ……


 頭上で不吉な音がして、あたしは一気に青ざめた。


 も、もしもし? いま、イヤ~な音がしませんでした?


 なんつーか、学習発表会の壇上で、全注目を集めてるときに、ストッキングにピピッと伝線が走っちゃったような……。


『ヤダ、よりによってこんなときにお願いだからカンベンして~!』 な、感じが……!
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