神様修行はじめます! 其の五
 浮かびあがろうにも両手両足は痺れたままだし、そもそもここは、簡単には浮上できないほど深い水底だ。


 結界が消滅した瞬間に、水圧でペシャンコにされちゃうかと覚悟したけど、なんとか無事でいられている。


 でも全身がひどく重い。これたぶん、水そのものが重いんだ。


 真水と比べてやたら粘着質な水が全身にまとわりつき、重りのように押さえつけてくる感じがする。


 まるで、大きな手の平によって上から沈められているみたいに、あたしの体はゆっくりと水底に横たわった。


 身動きのできない体で仰向けになって、光と闇と、あの不思議な静寂が支配する世界を見上げる。


 地上では絶対に聞くことの叶わない、独特の音と体感に包まれながら、フーッと意識が遠のいていった。


 気を張ろうとしても、どこかに引っ張られるみたいに強制的に意識を失いそうになる。


 息が続かなくて苦しいんだけど、朦朧としているせいで、死への恐怖は薄かった。


 ……意識、失ってる場合じゃない……。みんな、無事……?


 全身麻酔でもかけられてるみたい。どんどん頭がボヤけて、目蓋が勝手に閉じていく。


 このままじゃダメだ。生き延びるために、抵抗しろ……。


 必死になってこじ開けた目に、あの黒い霧状の異形が近づいてくるのが見える。


 今度こそ、あたしたちにトドメを刺しにきたんだ。


 あの衝撃波を生身でまともに食らったら、窒息死する前に内臓損傷で死んじゃうよ。


 あたしが、なんとかしなきゃ……。しっかりしろ。しっか……り…………


―― キ……ンッ!


 聞き覚えのある音と、耳馴染みのある圧迫感を鼓膜に感じて、パッと意識が引き戻された。


 いつの間にか薄黄色い結界が、あたしの体の周りをラップみたいに包み込んでいる。


 異形が突然の結界に警戒したのか、大急ぎでここから離れていくのが見えてホッとした。


 ……でもこれ、なに? 水園さんの結界と同じ、パーソナルタイプの結界……?
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