神様修行はじめます! 其の五
 頭上一面を、黒霧の異形が覆い尽くしている!


 いったいどこから集まってきたものか、無数の黒霧が水を埋め尽くし、果ても見えないほどの巨大な黒い塊りとなっていた。


 こ、このデカブツ集合体が、一斉に声を張りあげていたのか!? やかましいはずだわな!


 いや、やかましいじゃ済まない! 単体でも防ぎようのない衝撃波なのに、こんなデッカイのに連続攻撃されたら耐えられない!


 しかもこのデカブツが、結界のエネルギーに目をつけてお食事タイムに突入したら……!


「冗談じゃないって! カンベンしてよ!」


 思わず叫んだあたしの声に逆らうように、異形が再び吠え始める。


 あまりの凄まじさに、たまらず目を剥いて絶叫した。


「うっわあぁぁ――――!」


 頭上から押さえつけてくるような激震に身をさらされ、頭を抱えながら尻もちをつく。


 大音量で叫んでるはずの自分の声が、まったく聞こえない。


 皮膚が裂けそう! 肉が刻まれそう! 内臓が痛い痛い痛い! 苦しいぃー!


 なにもかもが豪音と激震と激痛に掻き消され、支配されてしまう。


 滅火の術を発動しようにも、いまにも発狂しそうな精神状態の中で集中するなんて、とても無理。


 ムダと知りながら体をクルっと丸めて防御の体勢をとり、声を枯らして悲鳴をあげ続けるので精一杯だ。


「やめてやめて! もうやめてー!」


 身体に受ける苦痛を和らげようと、目から勝手に涙がボロボロ流れ落ちる。


 ……と、涙に濡れた頬に、涼やかな一陣の風が吹いた。


 追い詰められて完全にパニックに陥ってしまった意識を揺り覚ますように、ひんやりと心地良い冷気が頬を撫でる。


 あ……門川君……?


 惑乱した頭が、ほんの少しだけ我を取り戻した。


 すると、それに応じるように異形の咆哮もピタリと鳴りを潜めてしまう。


 頭の中はまだ残響がぐわんぐわんしてるから、自分的にはぜんぜん静かになってないんだけど、肉を裂くような痛みは一瞬で消え去った。


 異形が、衝撃波を出すのをやめたんだ。どうして?
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