神様修行はじめます! 其の五
もうひとつの大切な居場所
―― ユラユラユラ……


 ……なんだろう。さっきすら、すごく心地いい振動を感じる。


 グッスリと眠るあたしの体が、ゆりかごみたいに揺れているの。


 もしかしたらこれって、あたしが赤ちゃんだった頃の記憶なのかな?


 生まれたばかりのあたしを、お母さんがゆりかごで、優しくあやしてくれているときの記憶……。


 うん、きっとそうだ。目が覚めたら、あたしの寝顔を眺めているお母さんの笑顔が見えるはず。


 そしてお母さんは、あたしに優しく話しかけてくれるの。


 ほら、こんな風に……。


「うああぁぁ~~?」

「…………」


 目が覚めたら、心配そうな顔をした、ひとつ目の赤鬼の顔が見えましたとさ……。


「……しま子?」

「うあう! うああうぅー!」


 半ベソかいたしま子が、地面に横たわっているあたしの体を懸命に揺さぶっている。


 あー、これがユラユラの原因か。ゆりかごじゃなかったんだ。


 よく考えてみたら、我が家にゆりかごなんてオシャレなモンはなかったよ。


 あたしは抱っこヒモと、じー様のおんぶで育ったんでした。


「うああぁ! ああうぅ――!」

「い、痛いよ、しま子。そんな上から本気で押しつけないでってば!」


 心配のあまり、しま子ったら力の加減を忘れてる。


 やめてー。そんな盛大にグワングワン揺さぶんないでー。


 勢い余って、口からヘンなもんが飛び出てきちゃいそうだー!


「起きるって! いま起きあがるからー!」

「小娘、目が覚めたか?」


 猫の姿に戻った絹糸が、あたしの顔の真横に座ってシッポを揺らめかせている。


 そのときあたしは初めて、ここがもう水の中じゃないことに気がついた。
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