神様修行はじめます! 其の五
 もともと現世に対して過剰なくらい憧れを抱いてた人だから、嬉しくて嬉しくて仕方ないんだろう。


 気持ちはわかるけど、頼むから静かにして!


 誰かに不審に思われて、家の窓から外を覗かれでもしたら速攻アウトだよ! 特にしま子が!


「現世って、言葉では言い表せないほど不思議な世界ですわねぇ! ……あら! ねえアマンダ聞いて! わたくしの声が反響してますわ!」


「わかってるよっ。だからさっきから静かにしてって言ってんのっ」


「これが現世~♪ ここは現世~♪ ららら~♪」


「ちょっとお岩さん走らないでっ。それと歌わないでっ。おまけに踊らないでっ」


「本当に、目に映る物すべてが珍しいですね。この建造物の材質はどうなっているのでしょうか?」


「ちょっとセバスチャンさんっ。よそ様の敷地に勝手に入り込んで、壁を撫で回さないでよっ」


「この明かりは、マロたちの世界の明かりとは性質が違うようにおじゃりますなあ」


「ボク知ってます! これ、蛍光灯ってやつじゃないですか!?」


「ケーコートー? 滅火の娘よ、それはこちらの世界の宝物なのか?」


「違うよっ。ただの照明器具だからっ」


「小浮気一族の長として、異界の宝物を前に黙ってはおられん! あのケーコートーなる物を、宝物庫に持ち帰る!」


「マロにもぜひ! 身重の塔子に、おみやげを持っていってあげたいと存じまする!」


「妊婦に蛍光灯持ってってどうすんの! ……って、コラしま子! 街灯から蛍光灯を引っこ抜いちゃダメ! それは市の財産!」


「うああぁう?」


「そうそう。……って、違うー! 地面から街灯ごと引っこ抜けって言ってるわけじゃないー! やめろー!」


「小娘、お前が一番やかましい。少し静かにせんか」
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