神様修行はじめます! 其の五
「扉の向こう側の空間は数種類あって、変更が可能なんじゃよ。この屋敷は言ってみれば、我ら専用の宿泊施設じゃ」


「めっちゃファンタジーな設定なのに、専用宿泊施設って、なんか一気に所帯じみた話だね……」


 まるでどっかの健康保険組合の、公正福利施設みたい。


「以前、永久がお前の学問所へ通っていたことがあったであろう?」


「うん。学問所じゃなくて高校だけどね」


「ここは、現世に誰かが滞在する際の拠点なんじゃ。永久も当時はここから通っておったんじゃよ」


 神の一族は、もともと現世の人たちを異形から守るための存在。


 いまはもう、現世の人たちは神の一族の存在をほとんど知らないけれど、だからって現世と完全に縁を切っちゃうわけにはいかないらしい。


 だから、正体を隠しながら、現世とあちら側の世界を行き来して繋ぐ者が必要になる。


 以前は門川君がその担当者だった。


 いまはあたしがアッチとコッチを行ったり来たりしてるから、自然とその担当者みたいなカンジになっちゃってるけど。


「さあ、中に入って休むとしよう。我は疲れたわい」


 もう一度開けたドアの中へと、絹糸がアクビをしながらスタスタ入っていく。


 あたしたちもオズオズと後に続いた。


 改めて目の前の表門を見れば、雪のように真っ白な壁と、墨のように真っ黒な板で豪奢にしつらえてある。


 門をくぐって幅広な敷石を踏みながら進めば、その左右には、夜に紛れるほど色濃い緑の松の木がズラーリ。


 すぐに表玄関があって、青色の瓦と太い柱と白壁に守られた空間に、艶々した板張りの廊下が続いていた。


 いちいち豪華なお屋敷だなぁ。旧なんとか藩とかの重要文化財みたい。
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