神様修行はじめます! 其の五
 絹糸は廊下を真っ直ぐ進み、奥まった部屋の襖をあたしに開けさせた。


 そこは三十畳ほどの広い和室で、床の間も、漆喰も、柱飾りも欄間の彫りも、さり気ない品の良さが漂っている。


 行ったことないけど、京都の高級料亭ってこんな感じなのかな? こういう部屋で舞子さんとかが踊るのかねぇ?


「ふう、やれやれ。ひと心地ついたわい」


 絹糸がダレ~ンと畳の上に寝そべって、あたしたちも畳の上に座り込んだ。


 あたしは遠慮なく足を延ばして、後ろに引っくり返りそうなぐらい大胆に伸びをする。


「うおぉ――! りらっくすぅぅ――!」


「滅火の娘、うるさい。そして行儀が悪い」


「だって精神的にも肉体的にもヘトヘトなんだもん。やっと休憩できるんだから、行儀くらい大目にみてよ」


「小娘、お前はいますぐ買い物に行ってこい」


「なんでよ!?」


「確保できたのは宿泊場所だけで、ここに食い物はないんじゃ。近くの『こんびに』でお前が調達してこい」


「えーズルイー! 疲れてるのに、あたしひとりだけー!?」


「天内さん天内さん! 『こんびに』ってなんですか!?」


「凍雨さん、わたくし知ってますわ! とっても便利なお店で、朝から晩まで一日中休みなく営業しているんですのよ!」


「え!? 一日中!? それじゃいつ休むんですか!?」


「だから、休みませんのよ!」


「えぇ!? 信じられない! 天内さんボクも行きたいです! ぜひ連れてってください!」


「わたくしも行きますわ! 絶対について行きますわ!」


「……絹糸、あたしひとりで行ってくるから、この人たちの面倒よろしく……」


「うああぁうぅ!」


「いい! しま子、そんな張り切らなくていい! ボディーガードはいらないから、ついて来なくていい!」
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