神様修行はじめます! 其の五
 呆れたように溜め息をひとつ吐き、絹糸は言葉を続けた。


「たしかに永久は、『天才となんとか』の、なんとかの方になる場合が多々ある」


「絹糸も好き勝手言ってんじゃん」


「やかましい。我はちゃんと、『なんとか』と言葉を濁しておるわい。お前らのようにロコツに『バカ』とは言うておらぬわい」


「いま言ったじゃん。明瞭な発音で言い切ったじゃん」


「やかましい! ……永久は無意味なことはせん男じゃ。切迫した状況のときならば、なおさらじゃ」


「じゃあ、門川君があたしたちを現世に移動させたのは、それなりの理由があったってこと?」


「わざわざこの非常時に、この屋敷の近くに送り込んだのじゃ。そうとみて間違いあるまい」


 門川君が、あたしたちを現世に送り込んだ理由……?


 もちろん、絹糸の考えが正しいかどうか確証はない。


 でも、もし絹糸のカンが当たっていたとしたら? 門川君がわざわざ現世を移動場所に選んだ理由は……。


「まさかその非常時の舞台が、これから現世に移るってこと……?」


 そう言った自分の声が、不安に染まっているのが自分でわかった。


 口の中に残ったご飯粒をゴクッと飲み込み、心の中の不安も一緒に飲み下そうとする。


 でも心臓のあたりをザワザワと乱す重苦しさは、魚の小骨のように引っかかっていて、うまく落ちてくれない。


 これまでの戦いにおいて、現世が表舞台になるようなことは一度もなかった。


 現世とあちら側の世界は、別舞台として隔離されていたから。


 だからこっちの世界でそんな異常現象が起こることなんて、ありえないと思って安心しきっていた。


 でもそれって考えてみれば、なんの根拠もないんだよね。実際、あたしは自由にふたつの世界を行き来しているんだから……。


「ねえ、絹糸」


「なんじゃ?」


「現世にいきなり異形が現れて暴れだすとか、そんな異常現象は起きたりしないよね?」
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