神様修行はじめます! 其の五
 きっとこっちの世界では、異形は存在できない仕様になってんでしょ?


 酸素が薄くて高山病になっちゃうとかさ。飲み水が合わなくてお腹壊して脱水症状おこすとかさ。


 理屈はわかんないけど、なんかそんな感じなんでしょ……?


 不安を打ち消してほしくて言った言葉に、絹糸は不確かな答えを返してよこした。


「ない。……とも言えるし、あるとも言える」


「なにそれ。どっちよ」


「実を言えば、異形はこれまで何度も現世に現れておるんじゃよ」


「え!? 現れ……ウゲッほ! ゲホッ! ゴフゴフぅ!」


「飯粒を盛大に口から飛ばすでないわ。まったく」


 あたしはペットボトルのお茶をゴクゴク一気飲みして、ようやく息を整えた。


 ぶはあっ! だ、だってだって、そんなん初耳だよ! そんな事実、あたし知らない!


 もしも異形が現世に現れたら大騒動になるじゃん! 大ニュースになるよ! 光の速度で噂が世界を駆け巡っちゃうよ!


 どっかの国の大統領の中二病発言なんて、問題になんないレベルだよ!


「でもそんなニュース聞いたことないよ!? 異形がこっちの世界に来ないように、神の一族たちが守ってくれてるからじゃないの!?」


「もちろん、ちゃんと守っておるわい。それが神の一族の役目じゃからのぅ」


 ネコ缶を食べ終わった絹糸が、ペロペロと前足を舐めながら言葉を続ける。


「じゃからこそ、『にゅーす』になるほどの大物な異形は現世に通ってこられぬのじゃ」


「へ? どゆこと?」


「ううむ、どう説明すればよいかのぅ……? 小娘よ、魚取りの網を想像してみい。巨大な魚は、網の目を通り抜けられるか?」


「ううん。抜けられないよ?」


「では、小指の爪の先ほどの小さな魚ならどうじゃ?」


「あ……」


「そうじゃ。あまりに小物な異形は、神の一族の守りの間をすり抜けてしまうんじゃよ。それらすべてを阻止することは不可能なんじゃ」


「んじゃ、現世に来ちゃったヤツらはどうすんの?」


「覚えておらぬか? そもそもお前は『あるばいと』の面接でここへ来たであろう?」


「あ……あーあ!」
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