神様修行はじめます! 其の五
「絹糸、無事、だったの? みんな、は?」


「姿が見えぬ。おそらくは土砂の下に埋もれているのであろう。我は運良く埋まらずに済んだがな」


「そんな……みんな、大丈夫、かな?」


「心配ない。典雅の結界に守られている。それよりも、どうやらお前の方が問題じゃな」


 しま子と異形が戦う様子をじっと見守っている絹糸が、チラリとあたしを見た。


「うん、痛い。背骨、やっちゃった、みたい」


 しゃべることすら苦痛を伴う激痛。口を開けばヒィヒイ泣いちゃいそうで、プライドだけで必死に堪えている。


 さっきから起き上がろうとはしているんだけど、下半身の感覚がぜんぜん無いんだ。


「これ、ひょっとして、半身不随、とか?」


「案ずるな。我が子ならばすぐに治せる。じゃが我が子を掘り起こす前に、あの異形を片付けねばならぬの」


「あいつ、なんなの? 古代種って?」


「我と同類じゃよ」


 バチバチと音を立てて燃え盛る山のような篝火の中で、泰然とする異形。


 その様子を眺める絹糸の表情は厳しく、深刻そうだ。


「数千年も前に存在した種。我と同じく、人によって神格化までされた異形じゃよ」


「じゃあ、神獣なの?」


 どうりで。そう聞いて納得だ。


 亀の体と、獣の足。ヘビの尾を持つ奇怪極まるその姿は、珍妙を通り越して神秘性すら漂って見える。


 見るからに神々しくて美しい絹糸とは違った意味で別格で、並外れて原始的で、強烈な生命力が感じられた。


「だがあれは本来、いるはずのない異形なのじゃ」


 絹糸の低い声が、不穏に響く。


「え? どういう、意味?」


「あの異形はもうすでに、絶滅した」


「え?」


「遥か昔に、この世から消滅してしまった種なのじゃ。もはや骨や塵すら存在しておらぬ。あの異形がこの世に現れるなど、あり得ぬのじゃよ」
< 256 / 587 >

この作品をシェア

pagetop