神様修行はじめます! 其の五
 痛みと不安で混乱する頭が、絹糸の説明でさらに混乱してしまった。


 遥か太古に絶滅した異形? それこそ、恐竜がこの世にとつぜん現れたようなものって意味なの?


「そんなバカな。いくらなんでも、あり得ないよ」


「じゃから言うたであろうが。あり得ぬと」


 いやそんな、あり得ないってアッサリ断言されても。


 そのあり得ない亀が、現実に目の前で丸焼きになってんですけど。


 ……あ、でも考えてみたら、常世島にもマンモスが存在していたんだよね?


 じゃあ単純に、まだ絶滅してなかっただけなんじゃない? この亀。


 どっか辺境の地でさ、ひっそりと、家族と親戚一門で慎ましく暮らしてました、とか?


「神獣クラスの異形が、どうやってひっそり暮らせるんじゃ。それは日本人が富士山の存在に気づかぬくらい、アホな話じゃわい」


「そ、そうなんだ?」


「しかもあの異形、命が無い」


「……え?」


 またまた不可解なことを言われて、あたしの頭がさらに混乱した。


 もうやめてよ。お願いだから、これ以上あたしの頭を酷使させないで。


 激痛と戦うだけで精いっぱい。正直言って、もう限界マックス。ゲロ吐きそう。


「実体はあるのに、命の気配が皆無なのじゃ。つまり、そこにあるのにそこにない」


「ごめん。なに言ってんのか全然分かんない。とりあえず吐いていい?」


「我とて、どう説明すればよいのか分からぬ。過去の亡霊が姿を現し、いきなり暴れ回っているようなものじゃ」


 そう言えば絹糸、やたらと『気配が読めない。おかしい』って連発してたっけ。


 すでに絶滅した、もうこの世にはカケラすら存在していないはずの異形が、命を持たぬまま現れ、人を襲っている?
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