神様修行はじめます! 其の五
「そのせいなのかな? あの異形の目に、意思が感じられないのは」


「なんじゃ? 意思がない?」


「うん。お月さまみたいに綺麗な目なのに、ぜんぜん生気がなくて」


 絹糸が、あたしの言葉を確認するように異形の両目を見る。


 すると何かに気がついたのか、絹糸の眉間に深いシワが寄った。


「絹糸? どうし……」

「ガアァァ――――ッ!」


 あたしの問いかけは、しま子の咆哮によって掻き消されてしまった。


 あたしと絹糸が話している間も、しま子が丸太のような太い両腕で、息継ぐ間もなく異形を殴り続けている。


 鬼神に変化しても、まだ体の大きさでは、しま子の方が圧倒的に敵より小さかった。


 けれどそれを補って有り余るほど、スピードもパワーも、普段に比べれば飛躍的に増幅されている。


 神獣を相手にしても全く恐れない。さすがはしま子だ。でも……。


「不利じゃな」


 絹糸がつぶやいた。


 そうなんだ。しま子がいくら殴りつけても、異形は泰然と構え続けている。


 もちろん、しま子の攻撃が効いていないわけがない。でも相手のウロコのような皮膚がよほど固いのか、決定打には至っていないみたいだ。


 鬼のコブシも利かないなんて、どんだけツラの皮が厚いんだ。あの亀は。


 どうりで無表情だと思った。表情筋ってものがないんだよ、きっと。


 あの顔つきといい、ツラの皮の厚さといい、まるで門川君を見てるみたいでちょっとムカつく。


「ウガアァァ――――!」


 ひと際大きな雄叫びを放ち、しま子が渾身の力で拳を振り上げる。


 そして『拳がダメなら』とばかりに、必殺の鋭い爪で敵を斬りつけて……


「グアァァ――ッ!?」


 いきなり、悲鳴を上げて仰け反った。


「し、しま子!?」


 見れば、しま子の爪が根元からゴッソリと剥がれて、傷口から鮮血がドクドク溢れている。


 こんの亀野郎! しま子の爪が届く寸前に、首を甲羅の中に引っ込めて防御しやがったな!?
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