神様修行はじめます! 其の五
 負傷したしま子はそれでも怯まず、引っ込んだ首を引っ張り出そうとして、無傷の方の手を伸ばした。


 ところがしま子の手が届く前に、異形の頭が素早く反応して、しま子の脇腹にグワリと噛み付いた。


 ワニガメを連想させるような鋭く巨大な牙が、鬼の強固な皮膚を難なく貫き、頑丈な骨を易々と砕く音がする。


 噴き出す鮮血と、悶絶するしま子の悲鳴に、あたしは自分の体の痛みも忘れて絶叫した。


「し、しま子ぉ――――!」


 異形が、あたしの声に反応した。


 空洞のような薄金色の丸い目にじっと見つめられ、ゾクリと怖気立つ。


 こっちに来る気だ! どうしよう!


 焦るあたしの予想通り、異形は無表情の顔をこちらに向けて、あたしと絹糸の方へと近寄り始めた。


―― ドォ――――ン……!


 すかさず空間が唸り、稲光が走る。凄まじい雷撃が連続で放たれ、薄暗い空間を眩いほど真白に染めた。


 絹糸の雷撃に、さすがに異形が立ち止まる。さらに大きな炎がその巨体を包んだ。


 今度こそ効いたか!?


 期待を込めて様子を窺うあたしの目に映ったのは、やっぱり泰然と構える異形の姿だった。


「効かぬか。やはりな」


 絹糸が苛立たしげにチッと舌打ちをした。


「あの異形は、実体はあっても命を持っておらぬ。生きていない相手を殺すことは不可能じゃ」


 つまり不死身ってこと? ゾンビみたいなもの?


 最悪じゃんそれ! バイ◯ハザード観た!? 通常ゾンビですら厄介なのに、あれの神獣バージョンだよ!?


「手に負えないじゃん! どうやって倒すの!?」


「無理じゃ。おそらくお前の滅火の炎をもってしても、あの異形は倒せぬ」


「た、倒せぬって……! じゃあ、このままおとなしく殺されるの待つだけ!?」


 しま子の脇腹に食らいついた牙を放そうともせず、そのまま異形はズシズシと足音も騒々しく突進してくる。


 身動きできないあたしはパニックになった。


 ちょ、ちょ!? なんか、亀の足取りが異様に軽やかなんですけど!?


 亀ってノロマじゃなかったの!? 『ウサギと亀』の昔話って、あれ嘘じゃん!
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