神様修行はじめます! 其の五
 ざわめきの間を縫うような、地味男の抑揚のない声が聞こえた。


 門川君が口元に手を当てたまま、チラリと視線を地味男に投げかける。


 あたしの胸元から、あたし以外は誰も聞き取れないほど小さな声で、絹糸がポツリとつぶやいた。


「永継(ながつぐ)……」


 門川永継(かどかわ ながつぐ)。門川君のお兄さん。


 門川の第一子で、本来ならそのお兄さんが当主になるはずだったのに。


 非・能力者として生まれたせいで、運命に翻弄されたあげく、亡くなってしまった人。


 お兄さんが非・能力者だったのは、門川の近親婚が原因だった可能性が高い……という理屈で考えれば……


 今後の結婚の組み合わせ次第では、これからまた、門川家に非・能力者が生まれる可能性があるんだ。


「門川一族を守る。それこそが、我らが忠臣のとるべき道ではございますまいか?」


「きょ……極論にございましょうぞ!」


 どっかのカエルが一匹、大声で叫んだ。


「なにもそれが、天内の娘である必要はない! 中位や下位の一族の娘でも良いでしょう!?」


「やれやれ、たわけ者めが」


 カエルの叫びに絹糸が呆れ声で反論する。


「上位以外からの輿入れなど、前代未聞じゃ。事情を知らぬ者たちは大騒ぎになるぞ? そうなったらお前たちは、どう釈明するつもりじゃ?」


 当主たちはグッと言葉に詰まってしまった。


『上位一族の娘は血統に問題があるので、門川家には輿入れさせられませーん』


 そんなこと、口が裂けても発表できないだろう。メンツってもんがある。
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