神様修行はじめます! 其の五
「天内のお嬢様、絹糸様、大丈夫でございますか?」


 涼しげな低音ボイスが聞こえる方へ顔を向けると、いつの間にか、仲間の全員がズラリと勢揃いしている。


「あ、みんな! 埋まってたんじゃないの!?」


「はい、埋まっておりましたので、わたくしめの蔦で掘り出しました。発掘作業に多少手間取ってしまいましたが」


「アマンダ! すぐにパールちゃんがあなたを治しますわ!」


「お岩さん、あたしよりも先にしま子を……うぐぅ!」


 仲間の無事な様子を見て気が緩んだのか、今まで忘れていた激痛が急に復活してきた。


 顔を歪めて歯を食いしばるあたしと、地面に横たわったまま反応のないしま子を見て、子猫ちゃんが鈴のように澄んだ鳴き声を宙に響かせる。


 高度な癒しの力が空気中に混じって、キラキラと光輝く細糸となり、あたしとしま子の体の上にふわふわ舞い降りてきた。


 折り重なっていく糸は、まるで半透明のベールのよう。癒しの織布に包まれた全身から、あれほど苦しかった痛みがスーッと引いていく。


 あ、体も動く! さっきまでぜんぜん感覚がなかったのに!


「しま子!」


 飛び起きたあたしは、しま子に向かって一目散に駆け寄った。


 意識を失い、『通常しま子モード』に戻っているしま子のほっぺたを、必死にベシベシ平手で引っ叩く。


「しま子! しま子しま子起きて! 目ぇ覚まして!」


「うあぁぁ~~?」


 子猫ちゃんのおかげですっかり回復したらしいしま子は、すぐにポカリと目を開けてくれた。


 そしてあたしに気がついて、ものすごく嬉しそうに「うあぁ!」と声を上げる。


 しま子の笑顔を見て安心した胸に、言葉にできない感情が溢れてジーンと熱くなって、目に涙がにじんできた。


 あたしが無事だと知って、こんなに喜んでる。自分だって瀕死の状態まで追い込まれたってのに。


 その気持ちがすごく嬉しくて、同時にすごく切ない。だってしま子ってば、いつも自分のことなんかそっちのけで、あたしのことばかり心配して。


「しま子ってば、しま子ってばホントに、ホントにもう……」

「うあぁう~~」


 身を起こしたしま子は、あたしの背中に両手を回して、幸せそうな表情で優しく抱きしめる。


 大きくて温かい胸の中で、あたしはグスグス鼻をすすりながら、「ありがとう」の言葉を何度も繰り返した。
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