神様修行はじめます! 其の五
「あの、天内さん。感動の場面を邪魔するみたいで悪いんですけど、あの亀どうしましょう?」


 ヒシッと抱き合いながら涙ぐむあたしとしま子の横で、凍雨くんが、引っくり返った異形を指さしている。


 地面に固定された異形は、四肢や尾をジタバタと蠢かせ、なんとか起き上がろうと頑張っているようだ。


 どうせそいつ、死ねないんでしょ? そこで未来永劫、地球が終わる日まで引っくり返っていればいいよ。


「穴が閉じたらそのまま生き埋めになるだろうし、ちょうどいいんじゃない?」


「そうはまいりません。しばらくすれば、自力で起き上がります」


「え? 亀って引っくり返ったら、一生起き上がれないんじゃないの?」


「それは一部の亀だけです。わたくしめの蔦の拘束も、この異形相手ではそう長くもたないでしょう」


 へー、そうなのか。亀って自分の力で起き上がれるのか。知らなかった。


 それはともかく、じゃあどうしようか。


 コイツが復活したらまた校庭を崩落させる迷惑行為に走るだろう。でも死なないんだから、斃すこともできない。


「こんなデカイ廃棄物、捨てるにしたって引き取り手もないしね」


「ならばとりあえず、こうすればどうだ?」


 言うなりクレーターさんがスタスタと異形に近づいて行くのを見て、あたしは慌てて大声を出した。


 ちょっとクレーターさんてば、なんて大胆な! 現世に来てから、やたらと肝が据わりすぎてない!?


「いくら縛られてるからって危な……わあ!?」


 異形の巨体を真っ白な煙がモクモクと覆って、あっという間に掻き消える。


 そして、煙の消えた地面の上に現れたのは……


「り、リクガメの、赤ちゃん?」


 薄茶色の甲羅の模様も初々しい、親指と人さし指でヒョイッとつまみ上げられそうなほど、ちっこい亀。


 口を一文字にクッと結んだチビ亀が、薄金色の丸い瞳でジーッとあたしたちを見上げていた。


 クレーターさんたら、打ち出の小槌で小さくしちゃったんだ!
< 262 / 587 >

この作品をシェア

pagetop