神様修行はじめます! 其の五
「んまあぁ! なんて可愛らしい生き物でしょう!」


 どうやら感性にドンピシャとハマッたらしいお岩さんが、黄色い歓声を上げた。


 さっそく亀を自分の手のひらの上に乗せて、小さな頭や甲羅を指先で優しく撫でている。


 なされるがまま、えらく機嫌良さそうに目を閉じている亀を見て、嫌な予感がした。


 ねぇ、これって例のお約束の……。


「気に入りましたわ! わたくしがこの子に名前を与えてあげましょう!」


 やっぱりきた、このパターン! お岩さんからの一方的な愛の命名式!


「お岩さん、まさかコイツを親衛隊に加えるつもり!?」


「もちろんですわ! だってわたくしたちはお互いに、逆らえない運命を感じてしまったのですもの!」


「ゾンビの亀と感じ合う運命って、なにそれ!?」


 校庭を崩落させるような危険物に、運命感じちゃダメだよお岩さん!


 あなたってば危険な香りのする男が好みのタイプなの!?


 ……って、叫ぼうとして、セバスチャンさんを見て納得した。


 ああ、そうか。なるほどそうだわ。モロ危険物質系男子が好みなんだったわ。お岩さんて。


 じゃあゾンビの亀に運命感じちゃうのも、生温かく見守るべきかしら。


「よろしくて? 今日からあなたの名前は、マクシミリアンちゃんですわ」


 誇らし気にそう宣言する彼女に、この亀のどこら辺がどう『マクシミリアン』なのかを、追及するのは諦めようと思う。


 たぶん聞いても明確な理由なんてないんだろうし。


「わたくしのマクシミリアンちゃん。あぁ、可愛いマクシミリアンちゃん。とっても素敵なマクシミリアンちゃん」


 歌うようなお岩さんの声が子守唄代わりになっているのか、『命名・マクシミリアン』はお岩さんの手のひらで、グッスリと眠り込んでいる。


 ずいぶんおとなしいけど、本当に大丈夫なのかなコイツ。
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