神様修行はじめます！　其の五
「おや、これはこれは……」


　地味男の細い目が驚いたように見開かれる。


　でもすぐにその表情は、含みのある微笑みに変わった。


「様子がおかしいと思って来てみれば、まさか、こんな所で各一族の長様方とお会いできるとは夢にも思いませんでした」


「それはこっちのセリフだよ！」


　あたしは、細目で笑っている地味男に向かって叫んだ。


　水園さんはまだしも、なんで地味男がここにいる？


　しかも、なんで水園さんと一緒なのよ？　門川君はどうしたの？


「ねぇ水園さん、門川君と一緒じゃなかったの？　彼はどこにいるの？」


「水園よ、もう案ずるな。私がこうして迎えに来たのだから、なにも心配することはない」


　あたしとクレーターさんが、お互い言いたいこと聞きたいことを、水園さんに向かって矢継ぎ早にしゃべり出した。


「門川君は無事なの？　お願い、門川君の居場所を教えて！」


「水園、いったい何があった？　くわしい事情を私に説明してごらん」


　水園さんは、まさかこんな場所で自分の父親に会うとは、思ってもいなかったんだろう。


　真っ青な顔で両目を見開き、クレーターさんの顔を凝視している。


　そしてなにも言わずにオロオロと視線を逸らしてしまった。


「水園、大丈夫だ。何か言いたいことがあるなら話しなさい」


　クレーターさんが娘を気づかう優しい声で話しかけるたび、逆に水園さんは、どんどん苦しそうな表情になっていく。


　やがてその目に薄っすらと涙がにじんで、ついに彼女は両手で顔を隠して、悲しそうにすすり泣き始めてしまった。


「うっ……うぅ……」


「水園、泣かずともよい。私はお前を責めているわけではないのだよ？」
　

「小浮気の長様。あなたは先ほどから、何をおっしゃっておられるのですかな？」


　クレーターさんが娘に向かって歩き出したとたん、それを制するように地味男が一歩前に踏み出し、水園さんの姿を背に隠してしまった。
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