神様修行はじめます! 其の五
それからしばらくして、市外から帰ってきたお母さんが迎えに来てくれて、一緒に自宅に帰った。
「里緒、また明日ねー」
「うん、また明日」
手を振って真美にそう答えたけれど、本当は明日、会えるかどうかも分からない。
こんなありふれた言葉にさえ秘密が潜んでいる。
帰り道で、心配したお母さんにあれこれ聞かれるのもつらかった。
聞かれたことに、いちいち嘘で答えなきゃならないのって苦しいよ……。
「あたしは大丈夫だから。心配しないでお母さん」
でもやっぱりあたしは、微笑みを貼り付けた顔でそう言うしかないんだ。
ごめん。ごめんね、お母さん。
◇◇◇◇◇
いったん自宅に帰って夜になるのを待ってから、あたしは武家屋敷に向かった。
『真美の家に宿題を忘れたから』って、また嘘をついて。
この嘘も、どんな作用かは知らないけれど、きっといつの間にかうまく調整されているんだろう。
そうしてあたしは嘘を重ねていく。
靴先を見つめながら夜道を歩くあたしの背後を、空にぽかりと浮かんだ黄色い月がついてきていた。
武家屋敷に着いて、表門をくぐって進んで行くと、入り口付近にセバスチャンさんが立っている。
松や椿やサツキの樹の前で、白砂利と敷石の上に立つ彼は、闇に紛れて夜空を見上げていた。
「セバスチャンさん」
「……天内のお嬢様。お待ちしておりました。どうぞ中へ」
そう言って入口へ進む背中に、あたしはもう一度呼びかける。
「ねえ、セバスチャンさん」
「はい?」
「時が止まってくれたら……って、思ったことありませんか?」
玉砂利を踏む音が止み、彼はゆっくりと振り向いた。
唐突だったろうか。でも、聞いてみたかったんだ。
いろんな物を抱えながら、いつもなにも言わずに微笑みの下に押し隠してばかりいるこの人に。
「里緒、また明日ねー」
「うん、また明日」
手を振って真美にそう答えたけれど、本当は明日、会えるかどうかも分からない。
こんなありふれた言葉にさえ秘密が潜んでいる。
帰り道で、心配したお母さんにあれこれ聞かれるのもつらかった。
聞かれたことに、いちいち嘘で答えなきゃならないのって苦しいよ……。
「あたしは大丈夫だから。心配しないでお母さん」
でもやっぱりあたしは、微笑みを貼り付けた顔でそう言うしかないんだ。
ごめん。ごめんね、お母さん。
◇◇◇◇◇
いったん自宅に帰って夜になるのを待ってから、あたしは武家屋敷に向かった。
『真美の家に宿題を忘れたから』って、また嘘をついて。
この嘘も、どんな作用かは知らないけれど、きっといつの間にかうまく調整されているんだろう。
そうしてあたしは嘘を重ねていく。
靴先を見つめながら夜道を歩くあたしの背後を、空にぽかりと浮かんだ黄色い月がついてきていた。
武家屋敷に着いて、表門をくぐって進んで行くと、入り口付近にセバスチャンさんが立っている。
松や椿やサツキの樹の前で、白砂利と敷石の上に立つ彼は、闇に紛れて夜空を見上げていた。
「セバスチャンさん」
「……天内のお嬢様。お待ちしておりました。どうぞ中へ」
そう言って入口へ進む背中に、あたしはもう一度呼びかける。
「ねえ、セバスチャンさん」
「はい?」
「時が止まってくれたら……って、思ったことありませんか?」
玉砂利を踏む音が止み、彼はゆっくりと振り向いた。
唐突だったろうか。でも、聞いてみたかったんだ。
いろんな物を抱えながら、いつもなにも言わずに微笑みの下に押し隠してばかりいるこの人に。