神様修行はじめます! 其の五
「あれはなんですの!?」

「なんで水絵巻からあんなモンが出るんですか!?」


 お岩さんと凍雨くんが叫び声を上げながら後ずさった。


 なにが起こっているのか状況判断する間もなく、大量の靄は空間を白く染める。


 このままじゃ視界が効かなくなる! ……と思った途端に、なぜか靄が急速に小さく集束して固まり始めた。


 まるで粘土をこねるようにモコモコ固まった靄は、そのいびつな形を見る間に整え、ふたつの物体に変化した。


 それは実物大の、人間の形。


 ひとつは大人で、ひとつは子ども。


 呆然と眺めているあたしたちの目の前で、まるで石膏人形みたいに真っ白だった表面が、鮮やかに色付いていく。


 手足は血色の良い温かな肌色に。長い髪と大きな瞳は、濡れたような黒色に。


 柔らかな頬と唇は、花のような桃色に。


 生きているとしか思えない現実感と存在感を持った、白い着物姿の女性と女の子の人形が、瞬く間に出来上がった。


 しかも……その人形は、滑らかに動き出した。


 すぐ側にいるあたしたちのことなんか気にもしていない様子で、お互いに微笑み合い、手を繋いで、笑い声まであげている。


 な、なんなの? この人形たち。


 人形、だよね? なんだかもう、こうして見てると生きた人間としか思えないけど。


「……み、水面(みなも)?」


 クレーターさんが笑い声を上げる女性の人形を見ながら、茫然自失の様子でポツリとつぶやいた。


「なぜ? なぜ、水面が?」


「クレーターさん、この人形のこと知ってるの?」


「私の妻だ」


「…………」


 はっ!? 


「つ、つまぁ!?」


 それってお刺身の横っちょの、千切り大根のこと言ってるわけじゃないよね!?


『ツマ』じゃなくて、『妻』だよね!?


「じゃあ、奥さん!? あの人形、クレーターさんの亡くなった奥さんなの!?」


「そうだ。それともうひとつの人形は、幼い頃の水園だ」


 子どもの頃の水園さん?


 そう言われて良く見れば、子どもながらに驚くほど整った顔立ちには、今の水園さんの面影がある。


 じゃあ、あの人形たちは在りし日の奥さんと水園さん? ふたりの過去の姿なの?
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